悩みや不安を抱えたときに、誰かに相談して心が軽くなった経験を持つ人は少なくないでしょう。しかし相談すること自体に抵抗感を持ち、ひとりで苦しんでしまう人もいます。そんな過去の自分に「コーチング」を通して向き合う過程を描いた作品『10年前の自分に』(作:吉本ユータヌキさん)がSNSで話題です。
コーチングとは、対話を通じて本人の力や答えを引き出す手法で、知識を教える「ティーチング」とは異なり、先導や強制をせず「気づき」を促すことが特徴です。
吉本さんは「コーチング」を受け、自分と向き合えたことでやりたいことが見つかったと嬉しそうに話します。それは「10年前の自分に届ける本をつくる」ことでした。
物語は10年前にさかのぼります。当時、吉本さんが所属していたバンドのメンバーが突然姿を消してしまい、吉本さんは新しいバンドを探しながら複数のアルバイトで生計を立てていました。そんなある日、中学時代の同級生たちと再会し、「来月子どもが生まれる」「昇進が決まった」など順調な近況を耳にします。
吉本さんは「そっか…26ってもうそんな歳なんや」と感じ、自分だけ取り残されているような不安に包まれます。しかし焦りとは裏腹に、何をすればいいのか分からず、自己嫌悪の日々を過ごしていました。
体調も崩しがちだった吉本さんは、誰かに相談したい気持ちがありながらも、自分を情けなく思いひとりで追い詰められていきます。そんな吉本さんを変えたのは、書店で見つけた『夢をかなえるゾウ』(著・水野敬也さん)でした。自分を変えたい主人公がゾウの神様に出された課題をこなす中で成長していく物語に触れ、吉本さんも毎日の課題を実践するうちに「できた」という達成感を覚え、前向きな気持ちを取り戻していきます。
さらに、かつて「しんどい時に飛び込める場所をつくりたい」とライブ活動をしていたことを思い出し、文章で同じような場を作ろうとブログを始めたことが、今の活動につながったといいます。
そして物語は冒頭で描かれていた10年後に戻り、プロコーチの中山さんとの対話に移ります。
吉本さんは「10年前の自分に本をつくりたいと、もっと早く思えていたらこの数年苦しまずに済んだかも...」と語ります。この言葉を聞いた中山さんは「この数年、苦しんだことは吉本さんにとってどんな意味がありますか?」と吉本さんに問いました。
すると吉本さんは少し考えた後、「苦しんだから今の自分に気づけた。全部あってよかった」と笑顔で答えます。その言葉には、過去を受け入れ前へ進む強さが込められていることが伝わります。
同作は吉本さんの最新刊『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』に収録されています。著書を読んだ読者からは、「人に弱いところを見せられることこそが本当は強いのかもと思った」「うまく言葉にできませんが、心の奥にすっと何かが入ってきて、涙腺が緩みます」など、多くの声があがっています。
そこで同作及び著書について、作者の吉本ユータヌキさんに話を聞きました。
■「誰かに頼ってもいいんだよ」と背中を押せたらいいな
ー同作を本としてまとめようと思ったきっかけは。
漫画の中で描いたように「10年前の自分に読ませてあげたい」という想いが核ではあるのですが、その他にも、自分と同じように他人に頼ることができなかったり、モヤモヤから先へ進めない人はたくさんいるんじゃないかなと思ったからです。
ー「相談できない人」に向けて、自分の体験から伝えたいことは。
ぼくは”他人の時間を奪うのはよくないこと”と思い込んでいたので、行き着いた先が本でした。本を読むなら、自分1人で解決ができるんじゃないかと。なので、本を作って、読んだ人に「誰かに頼ってもいいんだよ」と背中を押せたらいいなと思っていました。
けど、コーチングを経て、この書籍を作った期間を経て、今は「小さく試してみる」がいいと思っています。
申し訳ないとか、どう思われるだろうと気になるのですが、例えば一度だけ勇気を出して「15分でいいから雑談しない?」と友人に頼ってみる。「15分ずつ話を聞き合わない?」でもいいと思います。
実際にやってみると、思ってたより楽しかった!とか、なんであんなに悩んでたんだろう…もっと早くやっておけば…と思うことばかりでした。
それでも「うーん…」と思う人は、思い切ってお金を払ってサービスに頼ってみるのもひとつだと思います。すると「お金払ったんだから」といい意味で開き直ることもできると思います。
そうしていろんなことを小さく試せるようになった今は、ぼくのほとんどの悩みの根源は「他人に迷惑をかけてはいけない」と「恥ずかしい」だということがわかりました。なので、相手が迷惑じゃないと言ってくれたら、素直に受け止めて、頼ってみる。恥ずかしいに関しては、一時的な恥ずかしさで、悩みが解決できるならいっかと開き直るようにしています。
ー『夢をかなえるゾウ』は吉本さんにとってどのような存在でしたか。
唯一の居場所だと思っていました。そばにいて、自分を理解して、日々を応援してくれる存在でした。
ーどのような人に著書を読んでもらいたいですか。
「他人に頼れない人」にぜひ読んでもらいたいです。ぼくがそうだったので。
雑談って、全部が全部、悩みを解決させるものではないと思っています。モヤモヤが大きくなることもあれば、違うモヤモヤに気づいてしまうこともあって、楽になるだけではないんですけど、ぼくの場合は「いざとなれば自分には話せる人がいる」ってことが日々心強くいれるものになりました。
なので極論ですが本を読まなくても、この記事を見て「頼ってみようかな」と思ってもらえたら、それでうれしいです。
(海川 まこと/漫画収集家)

























