退職代行「モームリ」を運営するアルバトロス社が、弁護士法違反の疑いで警視庁の家宅捜索を受けた--。
業界全体に激震が走るなか、いち早く反応を見せたのが、日本初の退職代行サービス「EXIT」の社長・新野俊幸(にいの・としゆき)氏だ。X(旧Twitter)で投稿したのは、意外にも“ライバル支援”の呼びかけだった。
「モームリを運営しているアルバトロス社の社員の皆様、もし仕事を失ってしまうようであれば、弊社で雇いますよ。その場合、自分が無料で退職代行を実施するので、退職が完了したタイミングで弊社に入社してもらえればな、と。」
SNS上では「商魂たくましい」「スピード感がすごい」「ビジネスマンの鑑」といった称賛の声が相次いだ。だが、この投稿の裏には、業界を立ち上げた者としての責任感と支援の意思があったという。
■「競合も“同じ志を持つ仲間”」…投稿に込めた思い
「私は退職代行という概念を発明し、多くの批判を浴びながら、この業界を立ち上げてきました。ですので、たとえ競合であっても、退職代行業界で働く人間は “同じ挑戦者” だと思っています。今回の件で不安を感じ、退職を余儀なくされた方がいたら、その経験を無駄にしてほしくない。弊社で受け入れ、再出発を支援したいと思いました」
EXITでは年内を目途に、アルバトロス社の元社員を対象に無料の退職代行を実施し、希望者には採用も検討しているという。
「単なる採用活動ではなく、“退職代行”という新しい領域に挑戦してきた人たちのキャリアを守ることが目的」と語る。
■「非弁行為はあってはならない」…業界全体への危機感
新野氏は今回のモームリの件について、「非常に遺憾」としたうえでこう指摘する。
「退職代行業界はもともと“法的グレー”だと誤解されやすい領域。だからこそ、報道にあるような“非弁提携”があってはならない。残念ながら今回の件で、業界全体への信頼が揺らいでしまいました。この機会に、全社で法令遵守体制を見直すべきです」
■EXITのコンプライアンス方針「私たちは“伝書鳩”であることを徹底」
「EXITでは、“退職の意思を伝える”ことのみに徹しています。法的な交渉や判断は一切行いません。あくまで依頼者の意志を、会社へ伝える“伝書鳩”としての立場です」
また、弁護士事務所への案件紹介や労働組合名義の交渉など、法に抵触する行為は創業以来一切行っていないという。「弁護士法を順守することが、業界を存続させる唯一の道だ」と強調した。
■「退職代行は“逃げ”ではなく“攻め”」
SNSでは時に「退職代行=逃げ」と批判されるが、新野氏は明確に否定する。
「退職代行は“攻め”の選択です。自分の人生をコントロールし、環境を変える一歩を踏み出すためのツールなんです。家事代行があるように、“退職も代行していい”という選択肢があっていい。大切なのは、“自分で選べる自由”です」
EXITの利用者の多くが「もっと早く頼めばよかった」と話すという。新野氏は「退職代行をきっかけに、人生が好転する人を増やしたい」と語った。
■「業界の信頼回復に向けて」同業他社へのメッセージ
「今回の件を機に、業界全体で非弁行為を排除し、正しい運営を徹底してほしい。退職代行という仕組みは、社会に必要とされています。だからこそ、法令順守と信頼の積み重ねが不可欠です」
一方で、退職を検討している人たちにはこう呼びかけた。
「トラブルを抱えている場合は、迷わず弁護士へ相談してください。EXITを含め、合法的な代行業者を選んでほしいと思います。」
■「スピード感のある経営者」という声に対して
X上では「サバンナの食物連鎖」「ハイエナチャンス」といった比喩も飛び交ったが、新野氏は笑ってこう返す。
「特別なことをしたつもりはありません。経営者として、社会の動きに素早く反応するのは当然。スピードこそ命です」
■退職代行の「これから」
アルバトロス社の家宅捜索により、再び「非弁行為」という言葉が注目された。しかし新野氏は、これを業界が成長する“転機”と捉えている。
「退職代行はまだ新しい産業です。だからこそ、信頼と法令順守を積み上げていけば、きっと“社会のインフラ”として定着していくと信じています」
「退職代行は“逃げ”ではなく“攻め”」--この言葉には、働く人たちの「選択する自由」を守りたいという強い信念が込められていた。非常時にも冷静に業界全体を見つめ、スピードと責任で動く経営者の姿勢が、混乱する業界に一筋の光を投げかけている。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)



          
        
          
      
      
      
      
      














          


          
        
        



