Aさんは、先日亡くなった夫が遺した遺言書の開示に立ち会いました。夫は生前、公正証書遺言を作成しており、その内容は家族への感謝の言葉から始まり、財産の分割について具体的に記されていました。ここまではごく一般的な内容でしたが、誰もが予想だにしなかった一文が、最後に記されていました。
それは「私はBさんとの間に生まれた長男Cを、この遺言をもって私の子として認知する。私の遺産のうち、預貯金の半分をCに相続させる」というものです。
一瞬、その場が静まりかえりました。私や子どもたちにとって、全く聞き覚えのない女性と、会ったこともない息子の名前でした。夫が長年、私たち家族を裏切り続けていたという事実が、重くのしかかってきました。悲しみよりも先に、こみ上げてきたのは怒りでした。子どもたちも動揺を隠せません。
このような遺言による認知は、法的に有効なのでしょうか。そして認知された子どもには、どの程度の相続権が認められるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
■遺言による認知は「有効です」
ー「遺言による認知」は法的に有効ですか
遺言による認知は法的に有効です。民法では、婚姻関係にない男女の間に生まれた子と父親との間に法律上の親子関係を生じさせる手続きとして「認知」を定めています。この認知は、父親が生きている間に行うだけでなく、遺言によって行うことも認められています。
ご主人が作成された公正証書遺言が法的な要件を満たしている場合、その遺言に書かれた認知は有効に成立します。そして、認知されると法律上の親子関係が生まれるため、認知されたお子様は、ご主人様の相続人となります。
なお、遺言により子を認知する場合、遺言執行者はその就職の日から10日以内に認知に関する謄本を添付して、母の本籍地の役所に認知の届出をしなければなりません。また、認知しようとしている子が成人に達している時には、子本人の承諾が必要とされています。
ー認知された子の法定相続分は、妻やその子どもたちと比べてどうなりますか
認知されたお子様の法定相続分は、奥様とのお子様(嫡出子)と全く同じです。
かつて、法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子(婚外子、非嫡出子)の相続分は、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子(嫡出子)の半分とされていました。かし、この規定は法の下の平等を定めた憲法に違反するとの最高裁判所の判断が2013年に示されました。
この判決を受け、民法が改正され、現在では嫡出子と婚外子の相続分は同等とされています。
ー仮に遺言書に認知についてのみ記載されており、遺産分割について記されていない場合、遺産分割協議は、この「新しい相続人」を交えて行わなければならないのですか?
遺産分割協議は、認知されたお子様を含めた相続人全員で行う必要があります。
相続人のうち一人でも欠けていると、その協議は法的に無効となってしまいます。したがって、ご主人様が遺言で認知されたお子様も相続人である以上、その方を除外して遺産分割の話し合いを進めることはできません。
このケースとは異なりますが、もし、遺産分割協議成立後に「認知された子」が判明した場合には、遺産分割協議が無効とされるのではなく、この「認知された子」は価額のみによる支払いの請求権を有することになります。
法律上は、新たなお子様にもご家族と同じ相続権が認められています。その方を含めた遺産分割となる点に注意する必要があります。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士
長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
























