俳優、作家、歌手など多方面で活躍する中江有里さんが、徳島県を舞台にした映画「道草キッチン」で、大林宣彦監督の「風の歌が聴きたい」以来、実に26年ぶりに映画の主演を務めている。主人公は更年期症状に悩む50歳の独身女性、桂木立(りつ)。現在51歳の中江さんは「自分と重なる部分が多かったので、久しぶりの本格的なお芝居の仕事でしたが、謹んでお引き受けすることにしました」と語る。
■開店休業状態だった俳優の仕事
中江さんは1973年、大阪府出身。NHKの連続テレビ小説「走らんか!」のヒロインや大林映画などへの出演をはじめ、ポッキーの四姉妹物語のCM、書評番組「週刊ブックレビュー」の司会などで人気を博す。近年は阪神タイガースの熱烈なファンであることでも知られ、さらには文学フリマ東京41(11月23日)への初出店、朗読YouTubeチャンネルの開設など、旺盛な好奇心と活動量は50代に突入しても衰え知らずだ。
一方、俳優の仕事はここ数年、ほとんどなかった。
「自分の意思で遠ざかったわけではなくて、ちょっと間が空いたら話が来なくなったんです。そのうち『中江はもう俳優の仕事をやっていない』というイメージも広まってしまい、私は私で『今も俳優やってます』と自分からわざわざ言う機会もなくて。でも肩書きから『俳優』の2文字を外したことは一度もないんですよ。もちろん、やる気もあります!(笑)」
■50代で26年ぶりの映画主演、撮影を無事に終えることが第一
とはいえ、映画の主演は20代以来。いろんな意味で当時とは勝手が違うことも多かったのでは。
「あの頃はまだ若くて元気でしたが、それでも体力的にものすごくきつかったのを覚えています。だから今回は、まず最初に体力面での不安がありましたね。しかも私は他の仕事も抱えながらだったので、撮影がない日にはロケ地の徳島から東京や名古屋、大阪へと飛び回り、休みが全然ない状態。だからこそ、とにかく撮影を滞りなく終えることが最優先でした。好きな野球にたとえるなら、中継ぎも抑えもいない完投必須の先発ピッチャー状態。私は山本由伸じゃないぞ、と(笑)」
「主演するに当たって演技が大事なのは言うまでもありませんが、まずは毎日きちんとマウンドに立ち、投げ続けること。そして最少失点に抑えることを意識しました」
■人生の後半、下り坂をどう下るか
中江さんが演じる立は、都会で営んでいた喫茶店が再開発の影響で立ち退きに。更年期の症状を抱える中、家族も親戚もいない彼女の前に将来への不安が立ちこめる。
「人生100年時代とも言われますが、50歳はちょうど折り返し地点。ここからの50年は、ジェットコースターのように落ちていくばかりです(笑)。51歳の私は今まさに人生の坂を下り始めたところ。若い時と比べると体力はないですし、体調も崩しやすい。風邪を引くと1カ月くらい治らなかったり…。一度疲れると、回復するまですごく時間がかかりますよね。じゃあどうするか。疲れないようにするしかない(笑)。自分はもう、替えがきかないこの体でやっていくしかないわけですから、なだめながら上手に使っていくんです」
徳島県の板野町、吉野川市の美しい景色の中で、1人の女性が多様な人たちと関わりながら再生していく「道草キッチン」。何か大きな事件が起こるわけではないが、染み入るような端正な語り口が印象的だ。
「出演をオファーされた時は、正直『50代の更年期の女性の映画って…何ですか?』と思いました。嘘やろ、と(笑)。エロもグロもなく、善人しか出てこないのも今どきなかなか珍しいですよね。でも、こういう大人のファンタジーがあってもいいんじゃないでしょうか」
■ポッキー四姉妹物語のこと
インタビュー日は11月11日。そう、「ポッキー&プリッツの日」である。1990年代、ポッキーの「四姉妹物語」のCMに出演していた中江さんと、この日に会えたのも運命かもしれない。
「毎年毎年、いつの話やねんと思うけど(笑)。だって私、あれに出たん19歳の時ですよ。もう30年も前!」
「でも今までいろんなCMに出演してきましたが、あれが一番覚えられていますね。映画にまでなりましたから。私たち(清水美砂さん、牧瀬里穂さん、中江さん、今村雅美さん)はそこまで覚えてもらえるとは全く思っていませんでした。今でも時々、当時のポッキーの映像を使いたいという依頼が来ることがあるんですよ。誰か1人でもイヤだと言ったら使えなくなるのですが、今のところそれはないみたい。それで他の3人も、少なくともイヤではないんだなというのがうっすら感じられる…11月11日は、そんなことを再確認できる日です(笑)」
◇ ◇
映画「道草キッチン」は11月22日東京の新宿K's cinemaを皮切りに全国で順次公開。徳島の映画館ではすでに先行公開されている。
(まいどなニュース・黒川 裕生)

























