柿本崇誌(かきのき・たかし)さんは本名とのこと。まさに柿に選ばれし人
柿本崇誌(かきのき・たかし)さんは本名とのこと。まさに柿に選ばれし人

各地で深刻さを増すクマ被害。

クマは柿が好物で、人里に出てくる原因の一つになっているという。しかし過疎化や高齢化の影響で収穫されないまま放置される柿が多く、食べなくても収穫するよう訴えている自治体もあるほどだ。そんな中、放置柿を収穫・販売し、その売り上げをクマ対策にあてる活動をする人がSNS上で注目を集めている。

柿木崇誌(かきのき・たかし※本名)さんが秋田県能代市で放置柿の収穫を始めたのは2022年。以来、収穫シーズンには果実を、シーズンが終わるとそれをお菓子やスムージーなどに加工し、ネットやキッチンカーで販売しているのだ。

柿木さんに話を聞いた。

--現在の状況について教えてください。 

柿木:同じ町内でも散歩していたおばあさんが背後からクマに襲われ、数針縫うけがを負いました。襲ったクマは体長1メートルほどで、50センチほどのクマを連れていたそうで、親子だったと言われています。これまで出没は相次いでいましたが、けが人が出たのは初めて。今まで出没しなかった場所でも、相次いでクマが確認されています。その影響で、毎年地域住民と行っていた放置柿の収穫体験は中止となり、今年から本格的に始める予定だった県外観光客向けの体験観光も募集できず、開催を見送っています。

--以前との違いは?

 柿木:ここ数年もクマは出没していましたが、人里までは降りてきていませんでした。さらに人を見ると逃げていたクマが、今年は襲いかかってくるようになりとても危険です。かつてクマの痕跡がなかった場所にもツキノワグマが木の実を食べた時に作る枝の塊「クマ棚」が見られるようになり、食害も拡大しています。

自分自身はまだ一度もクマに遭遇したことはありませんが、収穫場所にはフンが大量にあったり、クマ棚が見られたり、実際にクマが柿を食べた形跡のある場所で作業しています。作業前に爆竹を鳴らしたり、音楽を大音量で流したり、クマ除けスプレーも常に携帯。背後から襲われないよう車を背にして収穫するなど、細心の注意を払っています。 

--今年の柿の出来はどうですか? 

柿木:今年は全体的に不作傾向で、実も小ぶり。さらに色づきが早かったことから鳥が早い時期から食べに来ており、クマ対策で木の伐採も進んでいるため、収穫量は減少しています。

--売上はクマ対策に充てているとのことですが。

柿木:柿収穫のための道具代やガソリン代、この問題を広く知っていただくためのポスターなど広告費など、補助金を合わせ現在までに700万円以上を充てました。収穫自体は無償で行っているので経営はギリギリ。「令和の虎」や「ホリエモンチャンネル」にも出演し融資依頼のプレゼンをしたのですが、元々の柿の単価の安さや、安定した収穫維持の難しさなどが原因で達成ならずでした。

燃料費の高騰など課題もあり活動を続けるのは大変ですが、起業家のみなさんに色々なヒントをいただいたので、試行錯誤しながら活動しています。

--読者へのメッセージをお願いします。

柿木:日照時間が短く寒暖差の大きい秋田県で、農薬を使わず自然のままに育った柿を命懸けで収穫しました。 生命力あふれる自然の恵み「命の柿」をぜひご賞味いただきたいです。売上は全てクマ対策の活動費に充てます。

◇    ◇

SNSでは「ガチで熊と対峙している人だ」「収穫時、ほんとに気を付けて欲しい」「農家の人はクマが出る恐怖と闘って生活を守ってる」「売上がクマ対策に使われるなら買うしかない」などの反響が集まった。柿木さんが収穫した柿は「命の柿」としてウェブショップでも販売されている。農薬を使わず自然のままに育った柿は評判も上々。ご興味ある方はぜひお求めいただきたい。

(まいどなニュース特約・米田 ゆきほ)