「将来は実家を建て直すのも選択肢かも」。仕事の都合で地元を離れて暮らしているものの、定年後は帰郷しようと考えているなら、一度は思い描いたことがあるのではないでしょうか。しかし、そんな実家の土地が、実は「借地」だったとしたら、どうなるのでしょうか。
■「この家借地だけど」
Aさん(関西在住、50代、会社員)は新卒入社以来、数年ごとに転勤を重ねる仕事に就いています。大学の同級生と20代で結婚し、家族で社宅や賃貸に住み替えてきました。
大学進学を機に一人娘は首都圏で一人暮らしを始め、Aさんも10年以内に迫る定年退職を控え、終の棲家について考え始めたそうです。
幸い、同じ地元の大学出身の妻とも「定年後は地元に帰るのが、親戚も若いころからの友人も多く暮らしやすいよね」と意見は一致していました。
とはいえまだ先の話。ぼんやりイメージがあるだけで、具体的な調べ物まではしていなかったAさん夫婦。
ある時、偶然実家近くへの出張が入り、Aさんは久しぶりに一人で実家に寄ることにしました。
生まれ育った家は、窓のサッシに隙間ができるほど老朽化。快適とは言い難い状況に、Aさんは両親へこう尋ねました。
「この家もだいぶ古いなあ。リフォームするか、建て替えるか。次の転勤が終わった頃なら、こっちに帰れるかもしれないし……」
すると両親は顔を見合わせて一言。
「この家、借地だけど……え?こっちに帰ってくるの??」
子どもの頃から「結婚してすぐ家を建てたから大変だった」と聞いていたAさんは、土地も両親の所有だと思い込んでおり、まさかの「土地は借地権」発言にびっくり。
この土地は父方の遠縁が所有。使う予定がなかったため、若くて購入資金のなかった父のために、借地権の形で使わせてくれていたのだそうです。
その遠縁も代替わりし、いまでは不動産会社を通じて地代を納めている賃借関係だと、初めて説明されました。
「まさか実家に戻るとは思っていなかったし、あと5年ほどで期間満了。だからその頃に家をつぶして土地をお返しして、施設に入ろうかと思っていたの」と、これまで聞いたことのなかった将来プランを語り出した両親。
「でも…もしここに本当に住みたいんだったら、更新をお願いしてみる?それとも売ってもらえるか聞く?」
■更新料に建替承諾料??所有権とは違うあれこれ
「将来は古い実家を建て直して住んでもいいかも」といった計画は、まさに捕らぬ狸の皮算用だったと気付いたAさん。
このまま知らないままではいけないと、借地権について学ぶことにしたそうです。
借地権は相続できること、借地料の相場は住宅なら事業より安く、固定資産税・都市計画税の3~5倍程度であること、契約期間を更新する時には更新料や、建物を建て替える時には更地価格の5%程度の建て替え承諾料を地代とは別に支払うことなど、Aさんがまったく知らなかったことがたくさんありました。
「今はまだ父母が健在ですが正直所有者さんとのつながりはないも同然ですし、また借地権として更新しておくほど絶対にその土地じゃなきゃいけない理由もないですし……。妻とも少し話しましたが、本当にどうするのが正解かわからなくてまだ悩んでいます」
ここ数年は「定期借地権」を活用したマンションも登場していますが、一般住宅の借地権となると経験者は少なく、将来へ向けてどう対応するのが正解か悩ましいところ。不動産会社に勤める友人から「貸主の意思確認も大事」と助言を受けたAさんは、近々、両親とともにご挨拶に伺う計画だそうです。
(まいどなニュース特約・中瀬 えみ)
























