2020年7月2日、キジ白の女の子「ティダ」さんは、花壇の片隅で小さく身を縮め、ひっそりとうずくまっていました。誰にも気づかれなければ命を落としかねない危険な状況…その小さな影に、ひとりの少年が気づいたことから、Xユーザー・むうむうとネコさん(@muumuu62197189)と出会うことになったのです。
■雨の前ぶれに見つけた小さな影
飼い主さんは買い物へ向かう途中、緑道公園の前で足を止めました。ひとりの少年が花壇をのぞき込んでいることに気づいたのです。
「どうしたんだろうと気になって私ものぞいてみると、小さな子猫がうずくまっていたんです。ひと目でわかるほど弱っていました」
その日は、夕方から大雨になる予報が出ていましたが、すでにポツポツと雨が降り出しました。迷っている時間は無いーーそう感じた飼い主さんは、子猫をそっと抱き上げました。
「体も小さく、衰弱も激しい。逃げる力など少しも残っていないはずなのに、必死で噛みついて抵抗していました。さぞ不安で怖いだろうと思うと、いじらしくてたまらなくなって…『私が連れて帰るね』と少年に言うと、コクリとうなずいて走り去っていきました」
飼い主さんが手を差し伸べたその子猫こそ、ティダさんでした。当時、生後推定3カ月ほど。ティダさんを抱いて家路を急いだのです。
「帰宅するのとほぼ同時に、大粒の雨がザーザーと勢いよく降り出して『間一髪だったな』と胸をなでおろしたのを覚えています。思いがけない出会いでした。この日から、ティダさんとの暮らしが始まりました」
■亡き愛猫が導いたーー不思議な出会いの伏線
ティダさんと出会ったこの日は、3年前、今は亡き愛猫・ミルコさんを保護した日でした。しかも、同じ場所で出会ったといいます。飼い主さんは「運命なのか、それとも“NNN”(※)の陰謀なのか」ーー不思議な気持ちに包まれながら、ティダさんを連れて病院へ向かいました。
「ティダさんはとにかく衰弱していました。先生から『すぐ死んでしまうかもしれない』と言われるほどだったんです。目はうつろで、息苦しそうに口呼吸をするティダさんを見守ることしかできず、胸が締め付けられる思いでした」
ティダさんは自力でご飯を食べられなかったため、飼い主さんはシリンジを使って少しずつ食べさせることに。
「弱りきっているにも関わらず、毎食後、必ず毛づくろいする姿が印象的でした」
こうして懸命なケアを続け、保護から3日後、ティダさんの体調に回復の兆しが見え始めました。
「自分からご飯を口に運び、りっぱなウンチが出たんです。嬉しくて、気づくと涙があふれていました」
飼い主さんの家には、すでに4匹の先住猫がいました。そのため、ティダさんの体調が落ち着くのを待って、ゆくゆくは実家で引き取ってもらう予定だったといいます。ただ、当時はコロナ禍で外出に制限があったため、タイミングを失っていました。そうするうちに、ティダさんとのご縁が深まっていったといいます。
「ティダさんと先住猫たちが顔をあわせるようになって、どんどん仲良くなったんです。とくに、きょうだいを亡くした経験をしている茶トラ猫・ノアさんは、ティダさんを目にした瞬間、ぴったりと寄り添って離れようとしなくなりました。まるで『やっと会えた』と、きょうだいとの再会を喜んでいるかのように見えたんです」
ふたりの仲睦まじい姿を目にして、胸が熱くなった飼い主さん。実家ではティダさんを受け入れる準備が進んでいましたが、飼い主さんはある決断をくだしました。
「ティダさんは我が家で迎えようと思いました。実家には事情を説明して『ごめんなさい』と伝え、ティダさんは正式に家族の一員になりました」
(※)「ねこねこネットワーク」の略で、構成メンバーは全て猫。猫と暮らしたいと思っている人間のもとへ、猫を隠密裏に送り込む活動をしているといわれている。
■来客に神対応!? 甘えん坊の美ニャンへ成長
あの命の危機にあった小さなティダさんは、現在5歳を迎えました。もう弱々しくはかなげな面影はどこにもありません。アーモンド形の瞳と、甘えたような表情が素敵な成猫へ。その魅力は家族だけでなく、お客さんをもメロメロにしてしまいます。
「とても頭が良く、きれい好き。表情が豊かな子です。ティダさんが1歳のころ、家をリフォームするために担当の方と打ち合わせ中、思わぬハプニングが起こりました。ティダさんは猫じゃらしをくわえてやって来て、その方の膝にそっと置いたんです。さらに、まっすぐ目を見て『ニャー』と一声。担当の方は『遊んでって言ってますね。こんなに何を伝えたいかわかりやすい猫ちゃんは初めてです』と驚いていました」
一方、ちょっぴり困っていることもあるといいます。
「ティダさんは留守番が苦手。少しの時間、買い物に出かけるだけでも寂しがって『ひっつきネコ』になってしまうんです。いろいろ工夫をしつつ、なるべく家を空けることがないように調整しています」
まだ小さな頃に飼い主さんの温かな手に抱かれ、元気を取り戻したティダさんは、飼い主さんのことを親猫のように慕っているようです。
ティダさんは、飼い主さんや先住猫たちにとって、かけがえのない存在になりました。
「虹の橋を渡ったミルコさん、そして愛情を注いでくれたノアさんが導いてくれたように感じています。ひとつでもタイミングが違えば、ティダさんと家族にはならなかった未来もあったと思うんです。まるで最初から決まっていたことのように、トントン拍子でうちの子になってくれました」
ティダさんとともに歩んだ日々を振り返って「ありがとうと伝えたいです」と語る飼い主さん。これからもティダさんは“ずっとのおうち”で元気いっぱい、楽しくにぎやかな毎日を過ごすことでしょう。
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)
























