「安全のため」という言葉の裏で、静かに消えていく地域文化に危機(手塚純一さん提供)
「安全のため」という言葉の裏で、静かに消えていく地域文化に危機(手塚純一さん提供)

「事前に発煙届も出して、消防団とも連携してきた。それなのに“今日は燃やしてはダメ”“当日もできない可能性がある”と言われたんです」

地域に根付いた神社の祭事が、直前になって実施困難となる事態が起きている。取材に応じたのは、栃木県那珂川町で駄菓子と自販機を並べたスポットを運営する、なかよし自販機コーナーの広報担当であり、地元神社の総代長を務める手塚純一さんだ。

■「寝耳に水だった」祭り準備中に告げられた“不可”

問題となったのは、1月14日に予定されていた神社の祭事「古札焼納祭(どんど焼き)」。参拝者から一年間お世話になったお札やお守り、神具、だるまなどを預かり、神職がお祓いを行いお焚き上げ(火で焼納)する、地域では長年続く行事だ。

手塚さんによると、事前に発煙届を提出し、地元消防団とも協力体制を整えていた。しかし、準備のために枯葉を燃やそうと消防署に電話したところ、こう告げられたという。

「消防法の運用が変わったので、今日は燃やしてはダメ。14日の祭りも、天候によっては、消防車を用意しても実施できない可能性がある」

すでに新聞折込などで祭りの告知は完了しており、地域は大きな混乱に包まれた。

■背景にあるのは「法改正」ではなく“運用の厳格化”

消防署から説明されたのは、令和8年1月1日施行の改正消防法の運用だという。発煙届を出していても、消防団と連携していても、林野火災警報が出ている場合は、祭事であっても火気使用は不可。「決まったことだから、消防署としてもどうにもできない」という説明だった。

この影響で、火を使う他の地域行事も軒並み中止になっているという。

■延喜式内社、そして“立て直しの矢先”だった

この神社は、県内でも11カ所しかない延喜式内社という由緒ある存在。かつては無形文化財に指定されていた祭りも行われていたが、現在は高齢化と財政難に直面している。

さらに追い打ちをかけたのが、旧会計役による運営費の使い込みだった。全額が失われ、手塚さんは新たに総代長に就任し、「新体制で立て直そう」と動き出したばかりだった。

「神社は正直、ボロボロです。それでも、この祭りの人入り次第で存続が決まるような状況でした」

■「楽しみにしていた光景」が見られないかもしれない

古札焼納祭は、参拝者にとっても特別な時間だ。宮司がお祓いを行い、炎が上がる中で古いお札やお守りが焚き上げられる…その光景を楽しみに訪れる人も多い。

しかし、林野火災警報が出た場合、当日は火を使わず、古札などを預かるだけの対応になる。

「広告で日時も出してしまっているし、当日になって“できません”では、申し訳ない気持ちになります」

■「安全」と「文化」の間で揺れる現場

手塚さんは、安全確保の重要性を否定しない。そのうえで、こう語る。

「急に法律が変わって、それを1月11日に初めて知った。準備も告知も終わったあとで、対応を変えろと言われる現場の困惑を、知ってほしいです」

今回のケースは、
・消防法の運用強化が現場にどう影響しているのか
・地域祭事が直面する継続の難しさ
・主催者と消防、双方が板挟みになる構造
を浮き彫りにしている。

「安全のため」という言葉の裏で、静かに消えていく地域文化。この問題は、決して一つの神社だけの話ではなさそうだ。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)