家族の介護のため、幼いながらに日々の家事をこなす『ヤングケアラー』。しかし彼らの日常を知ると、『可哀想』だけではない『たくましさ』が見えてきます。漫画家・水谷緑さんの作品『私だけ年を取っているみたいだ。 ヤングケアラーの再生日記』より『ゆいちゃんはヤングケアラー』から続く一連のエピソードは、実際の体験談に基づいて描かれた物語です。同作はInstagramに投稿されると、6,600ものいいねと反響が集まりました。
ときは1995年、8歳の主人公・ゆいはランドセルを背負いながら日々の買い物もしています。帰宅後、布団にくるまった母に「ただいま」と挨拶すると、母は血相を変え「来るな!!バカにしやがって」とゆいに物を投げつけてきました。
そんな母を、ゆいはいつものように隣の部屋に隠れて様子をうかがいます。母が落ち着いたあと、ゆいは夕飯の準備に取りかかるのでした。
母はゆいが2歳のころ統合失調症となり、物心付いたときにはこのような状況がゆいの日常でした。母は病院に通うものの病気の自覚がなく、薬はゆいが食事に混ぜてなんとか投与しています。
そんなある朝、母は「お父さんは浮気してる…会社に見に行ってきて」とゆいにせがみます。ゆいは「学校ある…」と言うも、母は「外に出たら近所の人に悪口言われる」「こんなに辛いのに協力してくれないの!?」と言われ、父の会社に行くことにしました。
結局ゆいは2時間目の授業に参加できず、ゆいは母に「浮気してない」と伝えるも「絶対浮気してる」と意見を変えることはありません。担任教師は最近休みがちなゆいを気にするも、ゆい自身が何が『問題』なのか分かっていないため、「困ってないです」と答えていました。
このように、ゆいは母のことを常に気遣っているのに、母は突如「あんた…本当の子どもじゃないだろう」とゆいに包丁を突きつけることもありました。そのため、ゆいは「なんでうちのお母さんは変になるんだろう。私が悪い子だから?」と自らを追い詰めてしまいます。
また別の日のこと、母は「これがあると不幸になる!」とゆいの大切な本や教科書すべて燃えるゴミへと捨ててしまいました。これを見たゆいは、母に直接怒ることはせず、そっと拾ってきます。そして抑えきれない感情に対して『自分なりの対処法』として、ゆいはぬいぐるみをバラバラにして綺麗に縫い直すことで発散するのでした。
そしてマジックペンで自らの腕にゲームコントローラを描き、「私はロボット!だから傷つかない!なんでもできるんだ!」と思い母の介護に臨みます。
読者からは「母親は入院はできなかったのだろうか」「ヤングケアラーの子を見かけたときどうすればいいんだろう」など、さまざまな議論が巻き起こっています。そこで、作者の水谷緑さんに話を聞きました。
■現在進行形で『家族のケア』を担っている子どもたちに読んでほしい
-同作において、ヤングケアラーについて描こうと思ったきっかけを教えてください
もともと編集者の方が『精神障がいのある親に育てられた子どもの語り』という本を読み、感銘を受けて提案してくださったのがきっかけでした。私自身、それまで作品づくりのため精神疾患に関する当事者取材を続けてきていましたが、その「子どもたち」がどのような思いで過ごしているかについては、深く考えたことがなかったと気づかされました。
最初は、自分が出産したばかりだったこともあり、子どもが過酷な環境に置かれる話を聞くのは気が進まない部分もありました。しかし、実際に元ヤングケアラーの方々にお会いしてみると、皆さん魅力的で精神的に自立しており、どこか達観したような姿に強く惹かれました。彼らの視点は、私自身が家族を作っていく上でも参考になることが多く、そのたくましさや物語を形にしたいと思うようになりました。
-同作を描くにあたって、実際のヤングケアラーだった人たちに取材したとうかがいました
この作品は、複数の元ヤングケアラーの方々への2年にわたる取材に基づいた「実際にあった」物語です。単に「かわいそうな子ども」を描くのではなく、スーパーでの買い物にささやかな喜びを見出す日常や、一家を支えているという当事者ならではのプライド、そして困難な状況を生き抜くしたたかさを大切に描きました。
「家族の絆」という言葉に苦しさや違和感を抱いている方、あるいは過去の自分と向き合いたいと思っている方の心に寄り添う一冊になっていればと願います。主人公ゆいの成長を通して、人は何度でも自分を取り戻せるという希望を感じていただければと思います。
-この作品を特にどのような方に読んでもらいたいでしょうか
まずは、現在進行形で家族のケアを担っている子どもたちに届いてほしいと願っています。少しでも読みやすいよう、作中の漢字にはすべて読み仮名を振りました。自分たちの状況を客観的に見つめ、生き抜くためのヒントを感じ取ってもらえたら嬉しいです。
また、ヤングケアラーに限らず、子どもの頃に大人の理不尽さに振り回されたり、親の期待に応えようとして自分の感情を押し殺してきたりした経験を持つ、すべての方に読んでいただきたいです。大人になってから「自分が何をしたいのか分からない」という無気力感を抱えている方が、この物語を通じて自分の感情を取り戻し、自分の人生を歩み出すきっかけになれば幸いです。
(海川 まこと/漫画収集家)























