高齢者の歩行介助をする介護士※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)
高齢者の歩行介助をする介護士※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)

地方都市で暮らす52歳の佐藤さん(仮名)は、事務職として働きながら、82歳の母と48歳の弟・健二さん(仮名)の3人で暮らしています。健二さんには知的な障害があり、日中は福祉サービスを利用していますが、自宅での入浴や食事の準備、金銭管理は、高齢の母が一手に担ってきました。

しかし先日、その母が自宅で転倒し大腿骨を骨折。入院生活が長引くこととなり、さらに軽度の認知症の症状も見られ始めました。仕事と母の病院通い、そして健二さんの日常生活のサポートが一気に重なり、佐藤さんは「もし母に万が一のことがあったら、弟の暮らしはどうなってしまうのか」という、長年蓋をしてきた不安に直面しています。

健二さんは、知的障害があることから療育手帳(B1・中度)の交付を受けており、障害福祉サービスの支給決定を受けています。母親とともに「サービス等利用計画」を作成し、現在は週5回、生活介護事業所に通っています。

親の介護と、障害のあるきょうだいの生活支援が同時にのしかかる状況は、いわゆる「ダブルケア」と呼ばれます。さらに、親の高齢化と障害のある子の中高年化が重なるという構図は、「8050問題」と地続きの課題であるともいえます。

「親なきあと」の問題は、けっして佐藤さん一家だけの特殊な事例ではありません。親が高齢化し、障害のある子が中高年となる広義の「8050問題」とも重なる課題として、家族の共倒れを防ぐためのセーフティーネットの理解は不可欠です。

住み慣れた家を離れても障害当事者が安心して暮らすための「共同生活援助(グループホーム)」の仕組みと、具体的な費用シミュレーション、そして入居に向けた備えについて考えていきましょう。

■親の介護と子の自立が同時に押し寄せる「8050問題」の構造的課題

かつての日本の福祉は「家族がケアを担うこと」を前提として設計されてきました。しかし、現代では核家族化が進み、地域のつながりも希薄になっています。障害者総合支援法に基づく福祉サービスは充実してきているものの、情報が複雑であり、家族が「自分が元気なうちは」と抱え込んでしまうことで、いざという時に公的支援に繋がれない「情報の格差」が大きな課題となっています。

内閣府の調査等によれば、障害者支援施設に入所している人の高齢化も進んでおり、待機者が多い地域も少なくありません。特に「親なきあと」への不安の背景には、住居の確保と金銭的な維持という2つの大きな壁が存在します。障害がある当事者が、親の年金や介護力に頼らず、自身の障害年金と福祉制度の範囲内で自立した生活を送るためには、個人の努力ではなく、制度をパズルのように組み合わせて活用する視点が求められています。

■家族の共倒れを防ぎ、安心を形にするための3つの準備

親が倒れてから慌てて施設を探すのではなく、余力があるうちから「外の支援者」と繋がり、生活の基盤を整えることが重要です。具体的な対策と費用の内訳を見ていきましょう。

▼グループホーム(共同生活援助)の月額費用と自己負担のリアル

グループホームとは、障害のある人が世話人などのサポートを受けながら、数人の仲間と共同生活を送る場所です。ここでは、生活保護世帯や低所得世帯(市町村民税非課税世帯)の場合、福祉サービス利用料そのものは自己負担上限が0円となる場合が多いです。

しかし、家賃や食費などの「実費」は発生します。健二さんのようなケースを想定した場合、月額費用のシミュレーションは以下のようになります。

家賃:約4万円(家賃補助制度の利用で減額できます)
食費:約3万円(朝食・夕食の2食分が基本)
光熱水費:約1万円(入居者間で分担、または定額)
その他日用品・雑費:約1万円(消耗品や個人的な支出)
合計:約9万円

▼「特定障害者特別給付費」などの制度をフル活用して支出を抑える

「月9万円も払えない」と絶望する必要はありません。行政には所得が低い人のための補填制度があります。

・特定障害者特別給付費(家賃補助)
グループホームに入居する市町村民税非課税世帯などの低所得の障害当事者に対し、国の制度として「特定障害者特別給付費(グループホームの家賃補助)」が支給されます。これは家賃負担を軽減するための制度で、月額1万円を上限に助成されます。さらに自治体によっては、これに加えて独自の家賃助成制度(月1.5万~2万円程度)を設けている場合もあります。

・障害年金の活用
健二さんのような知的障害(中度)で障害基礎年金2級を受給している場合、令和6年度の受給額は月額約6.9万円です。これに「障害者加算」がつく生活保護や、自治体独自の心身障害者手当を組み合わせることで、月々の支払いを賄うことが可能になります。

▼「サービス等利用計画」の作成と相談支援専門員の確保

入居には、市区町村の障害福祉窓口(基幹相談支援センターなど)で「障害福祉サービス受給者証」の申請が必要です。そして様々な障害福祉サービスを受ける際、最も重要になるのが「相談支援専門員」という専門家です。

彼らは「サービス等利用計画」作成のサポートや、本人に合うグループホーム探しや見学の調整、入居後の生活のモニタリングまでを伴走してくれます。家族だけで不動産業者のように施設を探す必要はありません。まずは地域の相談支援事業所に連絡し、「将来の入居を考えている」と相談することから始まります。

もともと健二さんは障害支援区分の認定を受けていましたが、母の入院を機に改めて区分認定の申請をし、相談支援専門員と繋がりました。そして健二さんのためのケアプラン作成を依頼し、まずは「体験入居」からスタート。健二さん自身も「ここなら友達もいるし、ご飯も美味しい」と新しい環境に馴染み始めています。佐藤さんは「自分が倒れても弟には帰る場所がある」と確信できたことで、母の介護にも穏やかな気持ちで向き合えるようになりました。

「親なきあと」への準備に「早すぎる」ということはありません。制度を知り、専門家という「他人の手」を借りることは、家族を見捨てることではなく、家族全員が自分らしく生きるためのポジティブな選択です。少しでも不安を感じたら、まずは市区町村の障害福祉課や、地域にある相談支援事業所の扉を叩いてみてください。その一歩が、家族の未来を「壁」から「安心の階段」へと変えていくはずです。

※本記事に記載の金額や制度内容は令和6年度時点の制度に基づいた一般的な目安です。お住まいの地域や世帯所得、障害支援区分によって具体的な支給額や利用料は異なります。詳細は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や、相談支援事業所の相談支援専門員へお問い合わせください。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)