Aさんの自宅の裏には、長年空き家になっている一軒家があります。もともとは高齢の男性がひとり暮らしをしていましたが、10年前に亡くなり、それ以来誰も住んでいません。
その空き家の庭に植えられていた大きな木の枝が、最近伸び放題になっています。敷地内で伸びるのなら問題ないのですが、今ではAさんの家の敷地まで大きくはみ出しているのでした。
さらに先日は、台風の強い風によってこの木の太い枝がAさん宅の塀の上に倒れかかり、「このままではもっと大きな被害が生じるかもしれない」とAさんは強い不安を抱きます。
またこの空き家には、以前は親族らしき人物が年に1度ほど様子を見に来ていたものの、最近はその姿も見かけなくなり、連絡先もわかりません。勝手に木を切ってもいいのか、そもそもこの問題についてどこに相談すればいいのか分からず、Aさんは途方に暮れています。
この木の枝を勝手に切ってしまった場合、罪に問われることはあるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士に話を聞きました。
■無断で切ると「器物損壊」になる可能性も
ー隣の空き家から伸びてきた木の枝が自分の敷地に侵入している場合、自分で切ってしまうのは法律上問題があるのでしょうか
該当の木の所有権は原則として隣地の所有者にあるため、原則としてはまず所有者に切除を求めることになります(民法233条1項)。
とはいえ民法上では、一定の場合には越境された側が自ら枝を切除できるとされています。具体的には、催告しても、隣人が相当の期間内に対応してくれないとき(同233条3項1号)、調査をしても土地の所有者がわからない・所在が分からなくなっているとき(同2号)、境界を越えた枝があなたの住戸を破壊しそうになっているなど急迫の事情があるとき(同3号)については、枝を削除してもよいとされています。
したがって、「絶対に自分で切ってはいけない」とまでは言えず、状況に応じて判断する必要があります。
ただしその場合であっても、無断で大きく切ってしまうと、後で所有者や相続人との間でトラブルになるおそれがあります。倒木の危険が高い場合でも、どこまで切ってよいかは慎重に見極めるべきです。
ー所有者が死亡していて、親族とも連絡が取れない場合、どこに相談すればいいのでしょうか
まずは自治体の空き家相談窓口に連絡することをおすすめします。多くの自治体では空き家対策の担当課が設けられており、所有者調査や所有者への連絡、適正管理の指導などを行ってくれます。
自治体が所有者の所在を把握している場合もありますが、個人情報の制約があるため、必ずしもすぐに連絡先が分かるとは限りません。状況によっては、家庭裁判所で相続財産清算人の選任を申し立てるなど、裁判所の手続を検討することになります。
また、不動産登記簿謄本を取得して、登記簿上の名義人を確認することも1つの方法です。
ー放置された木が原因で自分の家に被害が出てしまった場合、所有者に費用を請求することはできますか
隣人が損害の発生を防止するために安全な状態であるよう必要な処置を講じておらず、管理不十分が原因で被害が発生した場合、損害賠償請求をすることが可能な場合があります。
たとえば、枝が伸びて損壊した塀、屋根の修理代など、実際にかかった費用が対象です。
相続人がいない場合には、相続財産清算人を通じて対応を進めることになります。いずれにしても、被害の状況は写真や動画で記録しておくことが大切です。
台風で枝が倒れかかってきたという今回のケースは、放置が長期化するほど被害が大きくなるリスクをはらんでいます。所有者不明や対応不能の事情があるなら、自分で切除できる場合もありますが、自治体や法律の専門家である弁護士への相談、裁判手続を含めて慎重に進めるのが安全です。
◆齊田 貴士(さいだ・たかし) 弁護士
神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























