心に不調を抱える人の中には、休職や退職で経済的な不安を抱える人も多い※画像はイメージです(pain au chocolat/stock.adobe.com)
心に不調を抱える人の中には、休職や退職で経済的な不安を抱える人も多い※画像はイメージです(pain au chocolat/stock.adobe.com)

都内で一人暮らしをしている、30歳の会社員・佐藤さん(仮名)。強い疲労感や気分の落ち込み、不眠が続き、医療機関でうつ病と診断されました。症状の悪化で休職したため、現在の収入は健康保険から支給される傷病手当金のみです。

収入が減ったことで継続的な通院と服薬ができるか不安になり、主治医に相談したところ、自立支援医療という制度があることを教えられ、病院の精神保健福祉士を紹介されました。

心の不調を抱える人の中には、治療費への不安から受診や通院をためらう人も少なくありません。しかし、精神科や心療内科の通院には、自己負担を原則1割に軽減できる「自立支援医療(精神通院医療)」があります。制度の概要や利用方法を見ていきましょう。

■精神科に通いたくてもお金が…受診の壁になる治療費の不安

うつ病や双極症(従来の双極性障害)、不安症(従来の不安障害)、発達障害などの精神障害は、継続的な通院や服薬が必要になるケースが少なくありません。そのため、診察代や薬代がかかり続けます。さらに、専門医を受診するために遠方の医療機関へ通う場合は、交通費の負担ものしかかります。

心の不調を抱える人の中には休職や離職を余儀なくされた人も少なくないため、金銭的な負担は受診をためらう理由の一つです。

ただ、精神科や心療内科の通院には、医療費の自己負担を1割に軽減できる「自立支援医療(精神通院医療)」という制度があります。経済的な不安から受診を控えると、症状を悪化させる可能性もあるため、制度を正しく知って利用することが重要です。

■自己負担が原則1割になる「自立支援医療(精神通院医療)」とは

自立支援医療(精神通院医療)は、障害者総合支援法に基づく公的な医療費助成制度です。精神疾患の治療で継続的な通院が必要な人を対象に、医療費の自己負担を原則3割から1割へ軽減します。

補助が受けられるのは、自治体が指定した「指定医療機関」で受ける診察や治療です。通院や服薬が長期間に及ぶ場合も経済的な負担を抑えられ、治療を続けやすくなります。

▽どんな人がどんな支援を受けられる?

対象となるのは、精神科や心療内科への継続的な通院が必要な人です。代表的な対象疾患には、うつ病や統合失調症、不安症、発達障害、てんかんなどがあります。症状が改善していても、再発予防のために通院を続けている場合も対象になる可能性があります。利用の可否は病名だけで決まるわけではなく、継続的な治療の必要性をもとに判断されます。

▽どんな支援が受けられる?

自立支援医療の対象となるのは、指定医療機関で受ける診察や薬代です。また、医師の指示による訪問看護やデイケアも対象に含まれます。一方で、入院費や診断書作成料などは対象外です。どのような項目が助成の対象になるか、事前に確認しておくと安心でしょう。

▽実際にいくら安くなる?

例えば、精神科の診察代や薬代を合わせた毎月の医療費の総額が1万5000円だった場合、通常の3割負担では、窓口で支払う金額は4500円になります。一方、自立支援医療の対象になると、自己負担は1割の1500円になります。単純計算では差額は月3000円、1年間で3万6000円の負担軽減につながります。

ただし、自己負担額には所得に応じた月額上限が設けられています。具体的には、生活保護世帯は0円、市町村民税非課税世帯は2500円または5000円、課税世帯では、所得区分や「重度かつ継続」に該当するかどうかによって上限額や対象可否が変わるため、詳しくは自治体窓口で確認してください。

■自立支援医療の申請方法と注意点

自立支援医療の申請は、お住まいの市区町村にある障害福祉課や障害福祉窓口で行います。申請時には、医師の診断書や意見書、健康保険証、マイナンバー関連書類、印鑑などが必要です。自治体によって必要書類が異なる場合もあるため、事前に確認しておくと手続きがスムーズです。

▽病院を変更したときは手続きが必要

自立支援医療は、申請時に登録した指定医療機関や薬局で利用します。そのため、転院した場合や利用する薬局を変更した場合は届け出が必要です。また、引っ越しによって住所や自治体が変わった際も手続きを行わなければなりません。病院を変更する場合は、早めに自治体窓口へ相談しましょう。

▽障害者手帳がなくても利用可

自立支援医療は、障害者手帳を持っていなくても利用できます。「手帳がないから対象外」ではありません。また、休職中の人だけでなく、在職中でも継続的な通院治療が必要であれば申請できる可能性があります。自分が対象かどうか分からない場合は、主治医や自治体の障害福祉窓口へ相談してください。

■治療費の不安は一人で抱え込まないで

佐藤さんは病院の精神保健福祉士から申請方法の説明を受け、主治医に診断書をもらって市の障害福祉課を訪ねました。佐藤さんの住む自治体では対応が早く、申請から1カ月で承認が下り、以降の通院では1割負担で治療を受けられるようになりました。費用の負担が軽くなったため、安心して通院を継続できています。

体調が戻り始めた佐藤さんは、「治療費への不安から受診を先延ばしにせず、早めに支援につなげることが回復への第一歩になった」と話していました。

◇  ◇

精神科や心療内科の受診をためらう理由として、お金の不安は決して珍しいものではありません。しかし、その負担を軽減するための制度も用意されています。「自分も利用できるかもしれない」と感じたら、通院先の主治医や精神保健福祉士、市区町村の障害福祉窓口に相談してください。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)