退職までの期間を有休にするのは非常識? ※画像はイメージです(arancione/photoAC)
退職までの期間を有休にするのは非常識? ※画像はイメージです(arancione/photoAC)

転職を決意していたAさんは、次の職場が決まりすっきりした気持ちで退職の手続きを進めようとしています。彼は有給休暇が20日ほど残っていたため、退職日までの約1カ月間ですべて消化しようと考えました。

しかし上司に「残った有休をすべて消化して、来月末で退職します」と伝えた瞬間、上司は顔を真っ赤にして、「冗談じゃない! 1カ月も急に休まれたら後任への引き継ぎはどうするんだ!無責任にもほどがあるだろう!」と怒鳴り散らします。

ではAさんがおこなおうとしていた退職時の「有休の全消化」は、本当に無責任な行為なのでしょうか。会社と揉めることなく円満に長期休暇を勝ち取るための方法について、社会保険労務士 南里有紀事務所の南里有紀さんに話を聞きました。

■退職時の有休は「時季変更権」が使えない

ー会社側が退職直前の有休消化を拒否することは法的に可能ですか?

年次有給休暇は、従業員の心身のリフレッシュを目的とした強力な権利であり、会社側が一方的に取得を拒否することはできません。取得時期をずらす「時季変更権」も、退職日を過ぎると有休の消化が不可能なため、退職予定者に対しては行使できません。

ただし、就業規則に規定がある場合はもちろん、労働契約上の誠実義務(信義則)の観点からも、適切な引き継ぎをおこなうことは大切です。引き継ぎと有休消化の両方を考慮し、労使で話し合い、双方が合意のうえで退職日を調整するなど、お互いに配慮し合うことが円満な解決につながります。

ー「余った有休を買い取って」という交渉は法的に認められますか?

交渉(相談)すること自体は自由ですが、会社に応じる義務はありません。退職時に使い切れずに消滅してしまう有給休暇については、会社が買い取ることが法律上認められており、違法ではありません。もともと有休の買い取りは原則禁止ですが、退職時の未消化分については例外です。

ただし、有休の買い取りは法律上の義務ではなく、あくまで「会社側の任意」となります。会社が任意で買い取りに応じることは可能ですが、実務上は買い取りをおこなわない会社も多いのが実情です。

引き継ぎの時間が足りず有休消化がどうしても難しい場合は、一つの選択肢として「適切な引き継ぎをおこなう代わりに、残った有休分を買い取ってもらえないか」を会社側に相談・確認してみるとよいでしょう。

ー有休消化中に別の会社で働き始めるのは二重就職で問題になりますか?

有休消化中であっても、退職日を迎えるまでは前職の従業員としての身分が残っています。この期間に次の会社で働き始めると、法的に「二重就職(副業)」となります。前職が副業禁止の場合、就業規則違反で懲戒処分や退職金減額の対象になるリスクがあります。

さらに実務上、雇用保険の手続きなどを通じて新しい会社に判明するケースが少なくありません。雇用保険は複数の会社で重複加入できないため、新しい会社が手続きをする際、ハローワークから前職の資格が残っていると指摘されるからです。

トラブルを避けるために在籍期間を重複させないのが基本です。どうしても重なる場合は双方の会社に事前に説明し合意を得ましょう。

◆南里有紀(なんり・ゆき) 社会保険労務士/社会保険労務士 南里有紀事務所
大阪府吹田市を拠点に活動。労務相談・給与計算・制度設計など、中小企業の人事労務を幅広く支援している。令和8年度、厚生労働省委託事業「仕事と家庭の両立支援プランナー」委嘱。経営と現場をつなぐ伴走型の労務サポートを強みとし、「人が辞めない組織づくり」をテーマに活動。自身も二度の妊娠・出産を経験した2児の母。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)