両親と一緒に実家ぐらしをしている20代の元会社員、澤田さん(仮名)は、うつ病により休職後に退職し、現在は障害厚生年金3級を受給しながら療養を続けています。最近、少しずつ体調が安定してきたため、医師の勧めもあって障害者雇用枠での就職や短時間アルバイトからの段階的な就労を考え始めました。しかし、澤田さんの両親は「無理をして働いて少しでも収入を得たら、障害年金が全額打ち切られて、かえって生活が苦しくなるのではないか」と強く心配しています。澤田さん自身も「せっかく生活の命綱となっている年金が止まるのは怖い」と、就労への一歩を踏み出せずに悩んでいました。
■「働いたら打ち切られる」は大きな誤解
老齢年金は、原則、年齢が65歳以上になると受給できる公的年金のことです。一方、障害年金は年齢に関係なく、病気やけがによって障害を負い、働きづらかったり働けなくなったりした人のための公的年金です。
障害の原因となった病気やけがで初めて医療機関を受診した「初診日」に、国民年金に加入している場合は障害基礎年金、厚生年金に加入している場合は障害厚生年金を受給することが可能です。
実は、働いて給与収入を得たからといって、直ちに障害年金が打ち切られる(支給停止となる)という認識は大きな誤解です。
障害年金は、本人の障害の状態(日常生活能力や労働能力の制限の程度)に対して支給されるものです。単に就労しているという事実や、収入の有無だけで直ちに受給権が消滅するわけではありません。
ただし、受給している年金の種類(障害基礎年金か、障害厚生年金か)やその受給要件によって、収入との関係(所得制限の有無)は大きく異なります。正しく制度を理解し、「知らないことで一歩を踏み出せない」事態を防ぎましょう。
■障害基礎年金は例外に注意、障害厚生年金は制限なし
障害基礎年金は1~2級、障害厚生年金は1~3級まであります。障害厚生年金の場合、1~2級に該当する場合は、原則として障害基礎年金に障害厚生年金が上乗せされます。3級の場合は、障害厚生年金のみが支給対象となります。
障害基礎年金には、原則として就労収入による直接的な所得制限はありません。働きながら年金を受給することは十分に可能です。
ただし、初診日が20歳前にある「20歳前傷病による障害基礎年金」を受給している場合に限り、例外的に所得制限が設けられています。これは、本人が国民年金保険料を納付していない期間に発生した障害に対して、税金を財源として支給される福祉的な側面が強いためです。
具体的には、前年の所得額(収入から必要経費や控除を引いた額)が一定額(単身者の場合、所得額が約376万1000円、給与収入のみの目安で約530万円)を超えると年金額の半額が停止され、約479万4000円(給与収入目安で約640万円)を超えると全額が支給停止となります。なお、扶養親族がいる場合は制限額が引き上げられます。
ここで重要なのは、あくまで支給停止であり、受給権そのものが消滅するわけではないという点です。翌年の所得が基準を下回れば、再び年金の支給が再開される場合があります。
一方、障害厚生年金は、就労収入額そのものによって支給停止になる制度ではありません。ただし、就労状況は障害の状態を確認する際の参考とされることがあります。
■収入ではなく「障害状態の再評価」に注意
では、なぜ「働くと年金が止まる」と言われるのでしょうか。それは、基礎年金・厚生年金ともに、1~5年ごとに更新される有期認定の場合に提出する障害状態確認届(診断書)の存在が影響しています。
更新の際、「安定して就労できている=労働能力が回復し、日常生活の制限が軽減された(障害等級の基準に該当しなくなった)」と医学的・客観的に判断された場合には、等級落ち(降級)や支給停止となる可能性があります。
特に精神疾患などの場合、就労状況が「日常生活能力の向上」と直結してみなされやすい傾向があります。そのため、就労の実態(どのような職場で、どのような配慮を受けているか、就労による疲労で日常生活にどのような支障が出ているか、帰宅後の休息時間はどの程度必要かなど)を主治医に正確に伝え、実際の生活上の困難さを診断書に正しく反映してもらうことが極めて重要になります。
■不安な時は専門の相談窓口へ
障害年金と就労のバランスについては、初診日や現在の等級、疾患の特性など個別の状況によって対応がまったく異なります。自己判断で不安を抱え込まず、以下の専門機関に相談してください。
▼年金事務所または街角の年金相談センター
年金の加入記録や、20歳前傷病に該当するかどうかの正確な受給状況、具体的な所得制限の額面について、最も確実な情報を確認できます。
▼障害者就業・生活支援センター(通称:なかぽつ)
障害特性に応じた働き方の提案や、企業との配慮事項の調整、年金を含めた生活設計のアドバイスを受けられます。就労面と生活面の一体的な支援を行う機関です。
▼社会保険労務士、医療ソーシャルワーカー、精神保健福祉士
障害状態確認届(診断書)の更新に向けた、主治医への適切な情報伝達のサポートなど、専門的な見地から手続きのアドバイスを提供してくれる場合があります。
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澤田さんと家族はその後、地域にある障害者就業・生活支援センターへ相談に行きました。そこで、澤田さんの受給している障害厚生年金には就労による所得制限がないことを確認しました。そして、就労支援担当者と主治医が連携し「現在の職場で受けている配慮事項や、就労による疲労の蓄積度合い」を次回の更新時の診断書に正しく記載してもらうための準備ができることを知りました。現在、澤田さんは、障害厚生年金を受給して経済的な安心感を維持しつつ、週3日の短時間勤務(障害者雇用枠)から無理なく就労を始め、社会参加への自信を少しずつ取り戻しています。
制度を正しく知ることで、あなたやご家族の生活を守りながら、自分に合った働き方を考えやすくなります。障害年金は、働く意欲を否定する制度ではありません。制度を正しく知り、年金事務所や主治医、社会保険労務士などに相談しながら、ご自身に合った働き方を見つけていきましょう。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)
























