2時間並んだのに食べられない!責任取ってよ! ※この画像はAdobe Fireflyで作成したイメージです
2時間並んだのに食べられない!責任取ってよ! ※この画像はAdobe Fireflyで作成したイメージです

日曜日のお昼どき、40代の会社員AさんはSNSで評判の隠れ家風ラーメン店を訪れました。店の前はすでに大行列ができていたものの、Aさんはうだるような暑さのなか「せっかく来たのだから」と待ち続け、気づけば2時間が経過していました。

ようやく次が自分の番というところで、店員が店から出てきてAさんの目の前で「本日スープ切れのため終了」の看板を掲げました。これに怒ったAさんは「2時間も並ぶ前に、スープの残り具合を計算して後ろにアナウンスできたはずだろ!並んだ時間の時給と、ここまで来た交通費を今すぐ弁償しろ!」と店員に詰め寄ります。しかし店員は、落ち着いた様子で「看板やSNSに『スープ切れ次第終了』と書いてあります」と言うだけです。

このような行列の打ち切りトラブルについて、店側に法的責任はあるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。

■行列に並ぶ行為は契約前の「準備段階」

ー長時間並ばせた後のスープ切れは契約違反になりますか?

契約違反(債務不履行)には当たりません。店と客との間で「飲食を提供する」という契約が成立するのは、通常、席について注文を済ませ、店側がそれを承諾した時点です。

行列に並ぶという行為は、契約の準備段階にすぎず、まだ法的な契約関係は発生していないと考えられます。したがって、どれほど長時間並んだとしても、注文を確定する前に売り切れてしまった以上、店側に対して「契約を守れ」と主張することは不可能です。期待を裏切られた不満は残るものの、法的な責任を追及することは困難といえます。

ー事前告知なしの売切れに客が賠償請求することは可能ですか?

交通費や待ち時間の時給(損害賠償)を請求することは、原則として不可能です。契約が成立していない以上、店側には料理を提供する義務も、並んだ労力に対して補償する義務もないからです。

目の前でスープが切れるという精神的苦痛は理解できますが、時間や交通費の浪費は、自由競争のなかでリスクを承知の上で並んだ本人の「自己責任」とみられるのが法的な現実です。

ー「スープ切れ終了」の貼り紙があれば店側に問題はありませんか?

店が事前に「スープが切れ次第終了する」という旨を看板やSNS等に明記している場合、そのリスクは事前に客側に開示されていたとみなされます。これは「売り切れる可能性がある」という前提での行列参加を促す、正当な免責事項に該当するからです。

万が一、こうした貼り紙や告知が一切なかったとしても、飲食の提供義務がないことに変わりはありませんが、明確な貼り紙があることで、店側の道義的な誠実さも十分に証明されているといえます。

ー大声で店員に弁償を迫る客は罪に問われますか?

店員に怒鳴り散らし、理不尽な弁償を強要すると、客自身が犯罪に問われる可能性があります。「時給を払え」「交通費を弁償しろ」と大声で威嚇して金品を要求する行為は、刑法の「恐喝罪」や、義務のないことを行わせようとする「強要罪」に該当する恐れがあります。

さらに、激高して店先で騒ぎ立て、他のお客さんの入店を妨げたり営業をストップさせたりすれば、「威力業務妨害罪」に問われることもあります。どれほど腹が立っても、店員に謝罪や弁償を強要することは、一転して自分が「加害者」となり、重いペナルティーを受ける原因になるため、絶対にやめましょう。

◆北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)