無断投稿の影響で常連客はお店に入れなくなり… ※画像はイメージです(cheetah/photoAC)
無断投稿の影響で常連客はお店に入れなくなり… ※画像はイメージです(cheetah/photoAC)

高齢のAさんは、昔ながらの小さな洋食屋を営んでいます。何十年も顔なじみの常連客が足しげく通い、お店はいつも賑わっていました。

ところが最近になって急に見慣れないお客さんが殺到するようになり、お昼の営業時間だけで食材が売り切れてしまう事態が続いたのです。その影響で、昔から通ってくれていた常連客はお店に入れなくなってしまいます。

困り果てたAさんでしたが、インターネットはよく分からないため調べようがありません。そこで親戚に相談したところ、ある有名グルメインフルエンサーがお店のメニューや店内を無断で撮影し、SNSに掲載していたことがわかりました。

Aさんは知り合いの飲食店にも聞いてみたところ、そのお店も過去に同じような被害に遭ったそうです。SNSによる一過性のブームが去ったあとは、常連客も離れてしまったため苦労したといいました。これを聞いたAさんは「うちもこのままではお店が潰れてしまうかもしれない」と途方に暮れてしまいます。

このような無断撮影や掲載をおこなった相手に対して、法的な責任を問うことはできるのでしょうか。Authense法律事務所の弁護士・新町佳史さんに話を聞きました。

■理論上は損害賠償請求が可能であるが、現実的には非常にハードルが高い

-お店の許可なく店内や料理を撮影し、SNSに掲載する行為は法的に問題ないのでしょうか。

料理自体の撮影は原則として自由ですが、お店の施設管理権や他人の肖像権を侵害すれば法的問題になる可能性があります。

一般的な料理や店内の内装には、法律上の著作権は認められないことがほとんどです。そのため、それらを撮影してSNSにアップする行為自体が、すぐに著作権法違反になるわけではありません。

しかし、飲食店にはその場所を管理・コントロールする施設管理があります。店主には「店内で撮影をしてよいかどうか」を決める権限があるため、お店が撮影を禁止しているにもかかわらず勝手に撮影・掲載した場合は、この施設管理権の侵害(不法行為)になり得ます。

また、写真や動画に他のお客様や店員の顔が写り込んでいた場合は、個人の肖像権やプライバシー権の侵害として法的問題にもつながります。

-無断掲載によって常連客が離れるなど、お店側に実害が出た場合インフルエンサーを訴えることはできるのでしょうか。

理論上は損害賠償請求が可能ですが、現実的に裁判で勝訴するのは非常にハードルが高いでしょう。無断掲載によってお店の経営が悪化した場合、民法第709条の「不法行為」を根拠として、インフルエンサーに対して損害賠償(売上減少分の補償など)を請求することは理論上可能です。

しかし、裁判で勝つためには、「インフルエンサーの投稿」と「常連客が離れて売上が減ったこと」の間に、明確な因果関係をお店側が証明しなければなりません。「あの投稿さえなければ、今も常連客で賑わい売上が維持できていた」と裁判所に納得してもらうだけの客観的な証拠を出すのは、実務上極めて困難です。

ただしお店側が明確に拒絶・注意したにもかかわらず、それを無視して撮影を続けたり、営業を妨害したりといった悪質なケースであれば、刑事上の業務妨害罪や民事上の営業妨害としての損害賠償が認められる余地は十分にあります。

-もしインフルエンサーが「宣伝してあげた」と主張した場合、お店側はどう対応するべきでしょうか。

「宣伝効果」と「ルール違反」はまったくの別問題です。感情的にならず、毅然とした態度でお断りしましょう。たとえ相手が「良かれと思って紹介した」「実際に行列ができて売上に貢献した」と主張したとしても、それはお店の敷地内におけるルールを無視していい理由にはなりません。

インフルエンサーからそのように言われた場合は、「結果的にどうあれ、当店では無断での撮影およびSNSへの掲載は一切お断りしております。ただちに投稿を削除してください。」と毅然と対応するのが適切でしょう。相手が応じない場合は、SNSプラットフォームの運営側に対して権利侵害を理由に削除申請を行うのが現実的な一手となります。

-このようなトラブルを防ぐためには、お店側はどのような対策が必要でしょうか。

お店側の撮影拒否の意思を、事前にわかりやすく視覚化しておくことが最も有効な防衛策です。法律や裁判で処罰・回収するのが難しい以上、トラブルを未然に防ぐ、あるいはトラブルが起きた際に即座に対処できる環境を作ることが重要となります。

対策のひとつが「撮影・掲載禁止」とはっきりと明示することです。店内の目立つ場所やメニュー表、あればお店のホームページなどに「無断での動画・写真撮影、およびSNSへの掲載は固くお断りします」と明記しておきましょう。

また、その場での声かけも有効な手段となります。スマホやカメラを長回ししているような不審な動きを見かけたら、その場でスタッフが「当店は撮影禁止となっております」と声をかけることも検討してください。

あらかじめルールを見える化しておくことで、万が一勝手に投稿された場合でも、「明確なルール違反(施設管理権の侵害)があった」と言い切ることができ、SNS運営会社への削除申請や、万が一の法的措置をとる際にもお店側が有利になり得ます。

不当なトラブルから自分自身やお店を守るためには、事前の明確なルール作りと、毅然とした初期対応が何よりの防衛策となります。もし不条理な要求や被害に悩まされたら、まずは客観的な状況を整理し、法的措置も視野に入れて弁護士にアドバイスを求めると安心です。

◆新町佳史(しんまち・よしふみ) 弁護士/Authense法律事務所
これまで企業法務にも携わりつつ、現在は相続、離婚など幅広い分野にも対応。事務所累計の相談件数は1万件を超える。依頼者1人ひとりと真摯に向き合い、言葉にならない思いや背景事情にも丁寧に耳を傾け、本音を引き出す対話を重視。スピーディーかつ友好的な解決へ導く粘り強い交渉力を強みとする。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)