ミニバンBEVであるフォルクスワーゲン ID.バズが、初めてショーカーとして披露されたのは2017年である。
ID.バズは、現在でも多くのファンを持つフォルクスワーゲン タイプ2(ワーゲンバス)をオマージュしたモデルだ。「現代版タイプ2の登場か」と大きな話題となり、多くの人々が市販化を待ち望んだ。それから約8年という長い年月を経て、2025年6月にようやく市販モデルとして新型ID.バズが登場した。
ID.バズには、2種類のボディタイプが用意されている。
ノーマルホイールベース仕様(NWB)は、2-2-2のシートレイアウトを採用した6人乗り。ロングホイールベース仕様(LWB)は、ホイールベースを約250mm延長し、2-3-2レイアウトの7人乗りである。
ロングホイールベース仕様には、91kWhの大容量バッテリーを搭載する。航続距離(一充電走行距離)は554kmだ。
ミニバンタイプのBEVは、日本国内でもまだ選択肢が少なく、世界的に見ても珍しい存在である。本記事では、国内外で注目を集める「フォルクスワーゲン ID.バズ ロングホイールベース」を試乗し、その実力を評価する。
■ID. Buzzはストームトルーパーを想起させる個性的なデザイン
ID.バズは、何かとタイプ2(ワーゲンバス)と比較されるモデルである。フォルクスワーゲンのアイコン的存在であるタイプ2を引き合いに出すことで、そのヘリテージを現代的な価値へと昇華している。話題喚起とブランドイメージ向上の両面で、非常に巧みな戦略といえる。
デザイン自体はタイプ2と大きく似ているわけではないが、ノスタルジーと最新テクノロジーを融合させた「温故知新」ともいえる仕上がりだ。
なかでも特徴的なのがフロントフェイスである。三角形の切れ長ヘッドライトがシャープで精悍な印象を与える。第一印象として、スター・ウォーズの「ストームトルーパー」を想起させる独特の表情を持つ。とくに2トーンカラーでは、下部の配色によって笑っているようにも見え、印象に残りやすい。
リヤビューでは、一文字タイプのLEDコンビネーションランプが左右に伸び、ワイド感を強調する。全幅1985mmというボディサイズも相まって、ミニバンらしい重厚感と安定感のあるスタイルを形成している。
■カジュアルで解放感あふれるインテリア
ID.バズのインテリアは、外観のイメージ通り非常にカジュアルな仕上がりである。ボディカラーと連動したインテリアカラーがシートやドアパネルに採用され、開放感あふれる空間を演出している。
国産ラグジュアリーミニバンの豪華絢爛で重厚感のあるインテリアと比較すると、その方向性は対照的だ。むしろ、ID.バズのようなカジュアル志向の内装は新鮮に映る。一方で、アルファードやヴェルファイアのようなラグジュアリー志向を好むユーザーにとっては、やや物足りなく感じる可能性もある。
インパネデザインは、フォルクスワーゲンの特徴ともいえる水平基調で構成され、広がりを感じさせるレイアウトとなっている。上下に分割されたような造形が特徴的だ。素材はラグジュアリー感こそ強くないものの、シンプルで質感も一定のレベルに保たれており、チープな印象は受けない。
インパネ中央には、12.9インチの大型タッチスクリーンが配置されている。機能性という点では十分だが、デザイン自体は比較的オーソドックスであり、コンパクトカーにも見られるレイアウトだ。
ID.バズ プロ ロングホイールベースは新車価格が約1000万円に迫るモデルであることを考えると、外観同様、もう一歩踏み込んだ個性があってもよいと感じる部分でもある。すでにBMWやアウディなどのプレミアムブランドでは、コンパクトカーでもメーターとディスプレイを一体化した先進的なインターフェースを採用し、ブランドごとの個性を打ち出しているためだ。
■ID. Buzzの乗降性
運転席は開放感に優れる一方で、乗り込む際にはややハードルの高さを感じる。ドアを開けると、運転席は見上げるような位置にあり、一般的な国産ラグジュアリーミニバンとは異なる印象を受ける。
その感覚は、ハイエースのような商用バンに近い。乗降時には体を引き上げる動作が必要になるが、乗降用グリップが見当たらない点はやや気になるところだ。結果として、ステアリングに手を添えながら乗り込む場面も想定される。
BEVは床下に大容量バッテリーを搭載するためフロアが高くなる傾向があるが、ID.バズはその中でもフロア位置が高めで、乗降性という観点ではやや工夫の余地がある。後席についても同様で、大人でも足をしっかり持ち上げて乗り込む必要があり、高齢者や子どもにとってはやや負担となる可能性がある。もう一段低いステップがあれば、より扱いやすくなるだろう。
生産を商用車部門の工場が担っていることもあり、設計思想としてはバンの延長線上にあると考えられる。
一方で、乗り込んでしまえば印象は大きく変わる。高いアイポイントにより、国産ラグジュアリーミニバンを上回るほどの良好な視界が得られる。この見晴らしの良さと開放感は、大きな魅力だ。
■ID. Buzzの室内空間と使い勝手
後席は、2列目がベンチシートの3人掛け、3列目が2人掛けの構成となる。全幅1985mmというワイドなボディを活かし、どの席でもゆったりと座れる空間が確保されている。足元スペースにも余裕があり、国産ラグジュアリーミニバンと比較しても広さに不満はない。
2列目および3列目シートを折りたたむと、フルフラットに近い広大なスペースが出現する。2列目がベンチシートであることもあり、車中泊用途にも適している。大人2人に加え、小さな子どもであれば3人でも就寝できそうな広さだ。
ただし、100V/1500Wのアクセサリーコンセントが装備されていないため、キャンプなどで家電製品を使用する用途では制約がある。この点は惜しいポイントといえる。
■ID. Buzzのボディサイズと取り回し
カタログスペックとして、全幅1985mm、最小回転半径6.3mという数値を見ると、取り回しに不安を感じる人も多いだろう。実際、狭い道でのすれ違いには気を遣う場面が想定される。
しかし、実際に運転してみると印象は大きく異なる。着座位置の高さにより視界が広く、左右の見切りも良好なため、想像していたほど扱いにくさは感じない。タイトな道でも、過度なストレスなく走行できる。
とはいえ、全幅1985mmというサイズ自体は変わらないため、狭路では慎重な操作が求められる点は留意したい。
■後輪駆動がもたらすID. Buzzの走行性能
ID.バズには、91kWhという大容量のリチウムイオンバッテリーが搭載されている。航続距離(WLTCモード)は554kmで、実用面でも十分な性能を持つ。実走行で400km前後と想定しても、日常からロングドライブまで幅広く対応可能だ。
急速充電にも対応しており、受電性能は140~150kWと高出力である。適切に充電を行えば、長距離移動にも柔軟に対応できる。
駆動方式は後輪駆動(RR)を採用する。フォルクスワーゲンといえば前輪駆動のイメージが強いが、ID.シリーズではMEBプラットフォームにより後輪駆動が主流となっている。この点は、日本メーカーの多くが前輪駆動ベースであることと対照的だ。
後輪側に搭載されるモーターは、最高出力286ps、最大トルク560N・mを発生する。ただし、車両重量は約2720kgと非常に重く、高速域での加速は穏やかな特性だ。一方で、モーター特有の瞬時に立ち上がるトルクにより、市街地では非常に力強く、軽快な加速を実現する。数値から受ける印象に反して、重さを感じさせない走りが特徴だ。
さらに特筆すべきは、ミニバンとしては珍しくワインディング走行が楽しい点である。BEVは床下にバッテリーを搭載することで重心が低くなり、運動性能が大きく向上する。ID.バズもその恩恵を強く受けており、大柄なボディでありながら、安定した姿勢で軽快にコーナーを抜けていく。
とくに中高速域のコーナリングでは、フラットな姿勢を維持しながら路面に吸い付くような走りを見せる。さらに後輪駆動の特性も相まって、アクセル操作に応じて自然に曲がっていく感覚が得られる。この走行フィールは、前輪駆動ベースの国産ラグジュアリーミニバンとは異なる魅力といえる。
■ID. Buzzのリセールバリューを予想
・バズ プロ・ロングホイールベース中古車相場(2025年式):約890~990万円
・当時の新車価格に対する中古車相場比:約89~99%
一般的にBEVは多額の補助金が交付される。そのため、補助金を差し引いた金額が実質的な車両価値と見なされる傾向があり、リセールバリューは低めになるケースが多い。
しかし、ID.バズの補助金は28.8万円程度と比較的少ないこともあり、リセールバリューの下落は限定的にとどまっている。さらに、補助金の影響だけでなく、人気モデルで納期が長期化している点も、高値を維持している要因と考えられる。
こうした長納期の状態が続く限り、リセールバリューが大きく下がる可能性は低いと予想される。一方で、長納期でありながら中古車価格が新車価格を上回る状況には至っていない。
そのため、今後どのタイミングでリセールバリューが下落に転じるかは見通しにくい。高いリセールバリューを前提に購入する場合は、一定のリスクがある点にも留意が必要だ。
※中古車相場は、2026年7月調べ
■まとめ:国産ラグジュアリーミニバンとは対極にあるID. Buzz
ID.バズは、国産ラグジュアリーミニバンとは方向性が大きく異なるモデルだ。
▽デザイン
・バズ:カジュアルで個性的
・国産ラグジュアリーミニバン:重厚感と高級感を重視
▽使い勝手、室内空間
・バズ:室内は広く開放的だが、乗降性にやや課題あり
・国産ラグジュアリーミニバン:低床設計で乗降しやすく、利便性が高い
▽走行性能
・バズ:低重心で安定性が高く、走りの楽しさもある
・国産ラグジュアリーミニバン:快適性重視で穏やかな走行性能
▽価格
・バズ:高価格帯
・国産ラグジュアリーミニバン:ハイブリッドは比較的手頃、PHEVは高価格帯
このように両者は性格が大きく異なるため、直接的な競合というよりは異なるニーズに応えるモデルといえる。従来の国産ミニバンに違和感を覚えていた層にとって、ID.バズは新たな選択肢となる可能性が高い。
■フォルクスワーゲン ID. Buzz新車価格
・プロ:888万9000円
・プロ ロングホイールベース:997万9000円
(まいどなニュース/norico)
























