住民税非課税世帯が課税世帯になり、手取り額が減るイメージ
住民税非課税世帯が課税世帯になり、手取り額が減るイメージ

 物価高を受けて公的年金の支給が増額されたことで、かえって受給者の負担が重くなる逆転現象が全国で起きている。現役世代に向けては税額控除の措置が講じられた一方、年金生活者には据え置かれているためだ。年金増で住民税の免除(非課税)枠から外れると、社会保険料が跳ね上がり、介護などの優遇措置が打ち切られる。年数十万円の手取り減となる世帯もあり、早急な対策を求める声が上がる。(斉藤正志)

 「理不尽すぎる」

 6月、神戸市西区の女性(56)は、同居していた父(93)に届いた封書を開けて驚いた。支払うべき住民税額が記されていた。

 父は公的年金のほかに収入がない。女性とは世帯分離して「住民税非課税世帯」のはずだ。認知症を患い、6月末に老健施設に入所することが決まっていた。

 女性が市に確認すると、父の所得額が「課税世帯」になる基準額を超えていた。年金受給額は2025年度に3万円増え、所得が増えたとみなされて26年度から課税されることになっていた。

 増額は、物価や賃金の上昇に応じ年金額を改定する「物価スライド」「賃金スライド」という国の制度に基づく。物価高を受け、支給額が上がっていた。

 父の住民税額は6200円。女性はすぐに振り込んだが、その後、課税世帯になった影響の大きさにがくぜんとする。

 介護保険料は年9万800円と前年度から約3万7千円増、後期高齢者医療保険料も年約4600円増になった。

 6月末に老健施設へ入所すると、利用料は月約12万3千円だったが、課税世帯になったことで、8月からは約6万2千円増の月約18万5千円に跳ね上がった。介護保険制度が定める非課税世帯対象の食費・居住費の負担軽減措置が、適用されなくなったからだ。

 非課税世帯のままだった場合と比べると、手取り額は年約50万8千円目減りする。女性は「何のための物価スライドか」と嘆く。

 「こんなことになるなら、年金額なんて上げなくて良かった。元に戻してほしい」

【物価スライド】物価の変動に応じ、公的年金の給付額を1年ごとに増減させる制度。物価が上がれば年金の実質的な価値が目減りするため、前年の物価上昇率に合わせて引き上げる。現役世代の賃金の伸びが物価上昇率を下回った時は、賃金を基にした「賃金スライド」を適用する。2026年度は4年連続で増額改定となった。現役世代の負担が重くなりすぎないように、物価や賃金が上がった場合でも年金額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」が導入されている。