保護初日は飲まず食わずだったが…(「こたとつーちゃんと時々おたま」さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)※画像はイメージです
保護初日は飲まず食わずだったが…(「こたとつーちゃんと時々おたま」さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)※画像はイメージです

野良猫をほとんど見かけない地域に、突然現れた1匹のキジ白猫。やせ細った体で、人目を避けるように歩いていました。

「このままでは夏を越せない」

そう感じた女性は、保護団体とともに約1カ月にわたって捜索。しかし、猫の姿を見つけることはできませんでした。

ところが8月、今度は旦那さんの前に再び現れます。誰にも見つけられなかった猫が、なぜか夫婦の前に姿を見せたのです。

「君が幸運な野良猫と呼ばれるように」

そんな願いを込めて保護されたキジ白猫は、「れんげちゃん」と名付けられました。

投稿したのは、3匹の猫たちとの日常を発信している「こたとつーちゃんと時々おたま」さん(@s.kotaro0530)です。

■野良猫がいない地域で見た、やせ細った猫

れんげちゃんを初めて見かけたのは、7月初旬の深夜0時を過ぎたころでした。

投稿者さんは、遠方から泊まりにくる母親を迎えるため、待ち合わせ場所まで車で向かっていました。その途中で目にしたのが、ひとりぼっちで歩くれんげちゃんでした。

「最初に見たときは目を疑いました。野良猫自体、この地域で見るのが初めてだったことと、あまりにやせ細った体に衝撃を受けたからです」

れんげちゃんは、人目を避けるように歩いていたといいます。捕獲に必要な道具も持っていなかったため、その場ですぐに保護することはできませんでした。

それでも、投稿者さんの目には「あの体では夏を越せないことは誰が見ても明らか」と映りました。取り急ぎ動画を撮影し、その日のうちに以前、支援物資を通じて縁があった保護団体へ相談しました。

ただし、単に「保護してほしい」と依頼したわけではありません。

「一方的に『保護してあげてください』というのは、あまりにも無責任です。捕獲を手伝ってほしいという内容で、保護後のお世話や病院費用などは、すべてこちらで負担する覚悟で連絡しました」

■1カ月間探しても、姿は見つからず

それから約1カ月、投稿者さんたちは、れんげちゃんを見かけた時間帯に周辺を歩いて探しました。行動範囲を割り出し、捕獲器を設置するのに適した場所を見極めるためです。

仕事があるため、毎日の捜索は難しかったものの、投稿者さんと保護団体は、それぞれ動けるときに現場へ向かいました。しかし、れんげちゃんは、なかなか姿を見せませんでした。

それでも、あきらめることはできなかったといいます。

「れんげの姿は、野良猫の現実を強く突きつけてきた気がしました。世の中には誰からも見向きもされず、愛されることなく、それでも生きるために一生懸命ご飯を探す猫が本当にいるんだな、と」

投稿者さんの家では、先住猫3匹が暮らしています。長男のこたろうくんは4歳、つくねちゃんは3歳、しらたまちゃんは2歳です。しらたまちゃんは、普段「おたまちゃん」と呼ばれています。

家には当たり前のようにご飯と水があり、安心して眠れる場所があります。そんな先住猫たちの暮らしと、ひとりでさまようれんげちゃんの姿。その違いが、投稿者さんの胸に強く残りました。

「ただのエゴなのかもしれません。でも、私が保護しないと、あの子は命を落としてしまうかもしれないと思うと、自然と体が動いていました」

■「猫がいる」夫から届いた一枚の写真

再会は、8月初旬の午後7時前でした。

外出した旦那さんから、「猫がいる」という短いメッセージとともに、一枚の写真が送られてきたのです。写真を見た投稿者さんは、すぐにれんげちゃんだと確信しました。最初に撮影した動画と見比べ、お尻にある特徴的な模様が完全に一致していたからです。

投稿者さんは猫のご飯を手に、急いで家を飛び出しました。

「現場ではっきりとれんげの姿を確認できた瞬間は、本当に安堵しました。生きていてくれた、ありがとう、と」

まずは、その場所を「ご飯が食べられる安全な場所」だと覚えてもらうため、周囲を取り囲むようにご飯と水を置きました。保護団体とも合流し、今後の段取りを確認。翌朝には、地域組合の窓口へ捕獲器の設置許可を申請しました。

回答を待つ間も、投稿者さんは朝、昼、夜、深夜と現場へ足を運び、ご飯を食べた形跡や、れんげちゃんの姿を確認しました。

狙い通り、空腹だったれんげちゃんは頻繁に現れるようになりました。しかし、人を怖がって道路へ飛び出してしまったこともあったそうです。

「そのときは、生きている心地がしませんでした」

■捕獲器の設置は一度却下…直接交渉へ

ところが翌日、地域組合から届いた回答は「設置不可」でした。捕獲器を置くことで街並みの景観を乱す恐れがあるほか、不法投棄とみなされるなど、トラブルに発展する可能性があることが理由でした。

投稿者さんはあきらめず、窓口を通すだけではなく、担当者と直接話し合う機会を求めました。組合側にも地域の環境や秩序を守る立場があり、「誰が悪いわけでもない」と理解していたといいます。

そのうえで、どうしても小さな命を見捨てられないという思いを伝えました。

「もし私がその規則を守らず、組合や近隣住民から非難されることになったとしても、それが猫であれ人間であれ、ひとつの命を救うことになるなら、私は非難される方を選びたいです」

その言葉を受け、組合側も解決策を前向きに検討。最終的には、捕獲器を設置したままその場を離れず、何かあればすぐに撤去できる体制を整えることを条件に、設置が認められました。

保護団体へすぐに連絡し、捕獲器を設置すると、幸運にもれんげちゃんは、ほどなく中へ入ったそうです。

投稿者さんは仕事のため、現場に立ち会えませんでしたが、捕獲成功の連絡を受けると、仕事を終えてすぐに会いに行きました。

「現れてくれて、捕獲させてくれて、生きていてくれて、ありがとうと、たくさん伝えました。次は私がこの子に恩を返す番だなと、改めて覚悟を決めた瞬間だったと思います」

■保護初日は飲まず食わず…5日目にはひざの上へ

れんげちゃんは推定2歳の女の子。とても臆病ですが、攻撃や威嚇をしない優しい性格です。

保護後は避妊手術を受け、ウイルス検査、ワクチン接種、ノミ・ダニ・フィラリアの予防薬投与、検便などを行いました。ウイルス検査は陰性でした。

一方、栄養失調と脱水が確認され、点滴による処置も受けました。保護した当初は人に全く慣れておらず、ご飯も水も口にしませんでした。その様子から、人馴れまで半年ほどかかるのではないかと話していたそうです。

「私は、れんげが安全な場所で生きていてくれたら、それでいいと思っていました。人馴れは無理に進める必要はないと考えていたんです」

しかし、れんげちゃんは夫婦の予想を超える速さで、心を開き始めました。

初日は飲まず食わずだったものの、2日目には目の前でご飯を食べ、3日目には手に顔をすり寄せ、おなかを触らせてくれるように。そして保護から5日目には、投稿者さんのひざの上でくつろぐ姿を見せたといいます。

一緒に暮らし始めて半月が経っても、おもちゃを動かしたときや、人が急に動いたときには驚いて警戒します。それでも夫婦にはよく話しかけ、甘えるようになりました。

「これだけ甘えん坊だったら、ひとりぼっちの環境は相当寂しかっただろうなと、胸が締めつけられます。誰からも気付かれず、ひとりきりで頑張って生きてきたこの子に、これからはたくさん愛情を注いであげたいです」

■「他の誰でもない私の手で幸せにしたい」

現在は、れんげちゃんと先住猫たちがガラス越しに、お互いの姿を見たいときに見られる環境を作っています。においの付いたものを交換し、それぞれの存在に少しずつ慣れてもらう取り組みも進めています。

先住猫の中でも特に優しい性格だというこたろうくんは、れんげちゃんの味方になってくれるのではないかと考え、ひと足先に対面を始めました。タイミングはこたろうくんに任せていますが、威嚇することなく、れんげちゃんの様子を見守っているそうです。

投稿者さんの願いは、れんげちゃんを家族として迎えることです。

「もうすでに、かわいくてたまりません。先住猫と同じように愛おしく思っています。他の誰でもない、私の手で幸せにしてあげたいです」

しかし、れんげちゃんは長くひとりで生きてきた猫です。先住猫の存在が大きなストレスになるようであれば、この家で暮らし続けることが、必ずしも最善とは限りません。

そのため、自分たちの願いを押しつけるのではなく、れんげちゃんの性格や先住猫との相性を見ながら、今後を決めていく予定です。屋外へ戻すことは、選択肢にありません。

誰ひとり見つけられなかった1カ月間を生き抜き、再び夫婦の前に現れたれんげちゃん。幸運だったのは、夫婦に見つけてもらえたことだけではないのかもしれません。夫婦もまた、れんげちゃんがもう一度姿を見せ、保護させてくれたことを幸運な出会いだと感じています。

これからは空腹や孤独に耐えることなく、れんげちゃんのペースで、人や猫との暮らしを覚えていきます。先住猫たちに注がれてきたのと同じ愛情に包まれながら。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)