もうひとりの自分なんて許せない(フナヤマヤスアキさん提供)
もうひとりの自分なんて許せない(フナヤマヤスアキさん提供)

久しぶりに実家へ帰った陽子を待っていたのは、自分と同じ姿をした存在だった--。5ページの短編漫画『おかえり陽子』(作:フナヤマヤスアキさん)がX(旧Twitter)に投稿され、1000件以上のリポストと8000件以上のいいねを集めました。

同作は、主人公の陽子が久しぶりに実家に帰ったところから始まります。実家にはもうひとりの自分が居て、しかもそれを当たり前に両親が受け入れていることに、陽子は動揺を隠せません。

母はもうひとりの陽子を「家庭用ロボットのカゾクロイドよ」と説明します。父の会社で開発中の商品で、実家で試運転をしているようです。

カゾクロイドは「始めましてホントの陽子さん」と明るく話しかけますが、陽子はカゾクロイドを不気味に思い、両親に「本物の私が居るのになんで私が必要なの!?」と訴えかけます。この問いかけに両親は、陽子が全然連絡をくれないことや帰ってきてくれないこと、人との接触ができないご時世のため需要があることを説明しました。

その夜、カゾクロイドが当たり前のように陽子の部屋で寝ているのを見て、陽子はカゾクロイドへの負の感情を抑えられなくなり、カゾクロイドの首を締めてしまいます。しかしその瞬間、陽子は首と手が分裂するように外れ、倒れてしまうのでした。

じつはこの家族自体が実験の一部であり、衝撃的な結末が最後のページでは描かれています。この結末に読者からは「こういうちょっとゾクっとする感じのお話が好き」「後味がイゴつくような感じがたまらん」など、絶賛の声が多数あがっています。そんな同作について、作者のフナヤマヤスアキさんに話を聞きました。

■「髪の分け目」が示す、ふたりの陽子の正体

-作品が生まれたきっかけを教えてください。

もともと『久しぶりに実家へ帰ると、実家が大変なことになっている』というぼんやりしたネタがありました。友人らと同人誌『駅前グラスホッパー』を作る際、テーマが“SF”になったため、そのネタを使って短編を考えた結果、『おかえり陽子』が生まれました。

-陽子の感情と、家族の様子に込めた意図は、どのようなものなのでしょう?

もし自分が陽子なら、自分ではない存在が自分のように振る舞っていることに耐えられないと思ったからです。家族が見守っているように見えるのは、実験を観察しているからです。

-短いページ数で真相を反転させるために工夫した点を教えてください。

2人の髪の分け目で判断できるようにしています。短い作品でも印象的なカットが必要だと思い、4ページ目の1コマ目に配置しました。2、3ページ目では、その場面へつなげるため、陽子の感情の変化を見せる構成にしました。

-タイトルには、どのような想いがありますか?

1人暮らしをしていて、久しぶりに実家へ帰ったときに『おかえり』と言われると、誰でも安心すると思います。言い方にもよりますが、家族の愛を感じるシンプルで強い言葉です。難しく考えず、少しダークなSFとして楽しんでいただければと思います。

-短編SFで大切にしていることと、今後の活動で考えていることを教えてください。

印象的なカットを見せること、その場面までの日常やキャラクターの心情の変化を丁寧に描くことです。最近は4ページの短編SF『悩めるメカボウズ』も描きました。商業作品『カニバベル』の単行本と、『おかえり陽子』を収録した『短編漫画集 ブランチ』の電子版が各ストアで配信中です。『ブランチ』の紙版はメロンブックスで通販されていますので、是非、読んでいただきたいです!

(海川 まこと/漫画収集家)