「早さ、安さ、美しさの狭い中で、妥協点を見つけるしかない」。神戸・三宮の玄関口にある神戸交通センタービル。所有する第三セクター「神戸地下街」の安岡利美専務は、ビル再建の条件をこう話した。
だが、結局、優先するのは、早さと安さ。同社が再建に際して取ったのは、「ビル継ぎ足し」という方法だった。
九階建ての同ビルは、地下にさんちか地下街があり、二階はJR、阪急三宮駅改札に通じている。震災で、五階以上が傾き、一週間後には、三階までを残して、四階以上を撤去する方針を決めていた。
ともかく三階までをオープンさせたのは六月下旬。五十社のテナントのうち十五社が戻ってきた。三階の上に、六階分を軽くして乗せる「継ぎ足し方式」は今、安全性について、建設省の外郭団体、日本建築センターが評価中だ。
玄関口にふさわしいビルとして全面建て替えできないか、という神戸市の意向も、伝えられた。だが、安岡専務は、「地下街や駅の通路の問題があって、全部つぶすのは難しい」と説明する。
「継ぎ足し方式なら工費も安く、工期も短い。すべては、お金との相談だが、新たに建てると最低でも三十億円。自力再建は難しく、継ぎ足しなら約半分で済む。それでも苦しい」
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九月十日の全館オープンに向け、七階から十階の撤去と、六階以下の復旧が進む三宮の商業ビル「さんプラザ」。ここも、補修でいくという結論を出したのは一月だった。
入居者は隣のセンタープラザと、神戸サンセンタープラザ名店協議会をつくり、ビルを区分所有する。管理会社、神戸サンセンタープラザの片瀬和彦総務部次長は「全館オープンは予定通り。早い者勝ちという実態があるので、少しは希望が持てる」と、ほっとした表情を見せながら話した。
「オフィスは一時転居もしやすいが、店は商売の関係上、移しにくい。いずれ建て直しが必要だろうが、建て替えは震災前の試算で三百億円。大変さは地震どころではないだろう」
撤去した高層階は、交通センタービルと同様、継ぎ足し方式で元に戻す計画。名店協議会の西ショウ専務理事は「区分所有では、上だけ削るわけにはいかない。できるだけ早く復元したい」と言う。
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神戸市は、三宮駅の南約七十ヘクタールに地区計画の網をかぶせている。全体を五地区に分け、地区ごとに建物の用途制限や容積率、敷地面積の最低限度などを条例で規制する。「防災と景観に配慮した都心の再生」を進めたいとする。
だが、内容はおおむね現状追認で、既存の建築物には適用されない。都市計画局アーバンデザイン室は、ビル再建に公的資金援助も限られ、「民間の努力」にゆだねられる現状に、「個別指導では、新しい街になるような努力をお願いするしかない」と歯切れが悪い。
神戸市自身、市役所二号館(八階建て)再建で、選択したのは、四階までを残し、一階分を足して再オープンする方式だった。
神戸交通センタービルの安岡専務は「継ぎ足し方式でも、都心にふさわしい外観になる工夫はしたい」と話す。その工夫の検討は、日本建築センターが、安全性のゴーサインを出した後になる。
1995/8/26