ビルごとの敷地がしるされた区分地図の上を、指先がなぞっていく。
所々に落とされた黒丸のポイントは自社の関係物件。さくら銀行の関連不動産会社・京阪神興業の小山田奨常務はポイントに指を止めると、「どこも底が見えない」と繰り返した。
阪急三宮駅の北側に広がる解体ビル跡地。フェンスに囲まれた更地は、バブル経済が頂点に達した一九九〇年の終わり、神戸の玄関口として坪六千万円の値を付けた。
「それが今、千六百万円でも買い手が無い。あと二割は下げないとだめか、と言っている状況」と小山田常務。
「あっちに行っても、こっちに行っても、更地ばかり。『まだ下がる…』という心理が買い手に広がっている。いわゆる『ズルズル下がり』の状態。売買が成立しない」
「理論地価」という言い方が不動産業界にある。土地を買ってビルを建て、テナント収益を挙げる。その採算を逆算して、はじき出す。
その基になるテナント賃貸料が急落している。三宮駅前でピーク時、坪四万から三万円で推移したオフィス賃貸料は、現在一万七千から一万八千円。「今後、オフィス需要が出てくるか」という不透明感が、下降カーブに勢いをつけ、地価は路線価からさらに下がって、理論地価までいく、ともささやかれているという。
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解体後のビル再建がなかなか進まない三宮の現状。大手ゼネコンの竹中工務店神戸支店の仙田隆一支店次長は「テナント需要の見通しが難しいため、解体を終えたビル所有者に『様子見』が広がってしまった」と説明した。
兵庫が発祥の地の同工務店は、兵庫県庁舎と神戸市庁舎を手掛けるなど、地元でトップの請負実績を残し、三宮で解体が必要になったオフィスビル六十二棟のうち、二十四棟の解体を受け持った。
約五百人を抱える同支店も一時、全国からの応援を合わせ九百人に膨れ上がった。「解体、修復に続き新築需要が殺到する」。当初はそう予測し、営業部隊の増員も考えたが、一カ月ごとの見直しの度に必要人員は減り、今では震災前の人員でいけるか、というところまで来ているという。
他の大手ゼネコンにも態勢縮小の動きは広がっている。
「復旧は全体としてスムーズに進んだ。しかし、建築が主流になる復興は、発注が出てくるまで、まだ時間がかかりそうだ。権利調整で民間の限界が出始めている」(鹿島)
「わが社の工事でみれば、新築発注の出方が若干ゆっくり気味かな、と感じる」(大林組)
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長びく不況に震災がかぶさり、神戸経済の足を引っ張る。兵庫県不動産鑑定士協会の佐藤實会長は「国のカネがつぎ込まれ、復興が進めば、商業環境は前より良くなる。景気の回復次第で、土地も先を見た買いが入るはずだ」と予測する。
「ビルという器はあくまで経済の結果」と言う竹中工務店の仙田次長はこう強調した。
「経済が動き、オフィスが進出してきて、初めてビルが求められる。企業と経済にインパクトを与える復興を、行政がどうリードするか。元に戻す復興だけではジリ貧だ」
1995/8/25