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(10)空中回廊 構想復活に再び三つの壁
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 大きな「ひさし」にしか見えないかもしれない。震災でアーケードが落ちた三宮センター街で、ビル三階から突き出し、青空を遮る出っ張り。歩行者用の「空中デッキ」と、気づく買い物客は少ないだろう。

 デッキは幅三メートル、延長はセンター街一丁目商店街の二百四十メートルに及ぶ。が、ビルをつなぐ部分は途切れたまま。設置以来、全面利用されたことはない。

 「あれから二十六年。眠っていた計画が、こんな形で浮上してくるとは思わなかった」と、雑貨店を営む小松原正直さん(55)。

 一九六九年、再開発で、小松原さんが店を七階建てビルにした時、デッキ設置を求めた神戸市の構想は壮大だった。南側の空中デッキは、北側のセンタープラザ、さんプラザと空中通路で接続。さらに中央幹線から鉄道もまたいで生田地区の歓楽街に抜ける。

 その計画が、震災後、都心復興のグランドデザインともいえる三宮地区計画の目玉として復活した。

 神戸市の構想では、地下街と地上、そして空中の「三層構造」にし、買い物客の回遊性を持たせる。都心商店街の大きな魅力になる。災害の際には、縦にも横にも逃げられる防災機能を備えることにもなるという。

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 一丁目から三丁目まで続くセンター街の被害総額は約三百億円。約二百三十店のうち百六十五店が、八月末までに再開した。しかし、「各店の売り上げは震災前と比較にならないほどひどい。復興からはほど遠い状態」と一丁目商店街振興組合の長澤基夫理事長。

 組合は復興委員会で、「復興五カ年計画」をまとめた。世界一を目指すというアーケード整備やカラー舗装などと並び、「三層構造の実現」も盛り込んだ。

 だが、二十六年前、とん挫した空中回廊構想の問題は、今もそのまま残る。

 客の流れが一変するのではないか、という各店の思い。個々の利害調整。途切れたビルのデッキをつなぎ、センター街をまたぐ橋の支柱を市道におけるかという道路法の問題もある。

 最大の問題は、資金の負担である。長澤理事長は、悩みを話す。

 「費用を出したい気持ちは、一致している。でも、自分の店の再建で出費を抱え、アーケードの問題もある。現実にどれだけの負担に耐えられるか。空中回廊整備は億単位になり、ビル所有者には厳しい」

 資金、合意、法律の三つの壁。神戸市は、デッキに公共性を持たせ、支援方策はないかと内部で検討、道路法の許可も弾力的に議論を進めている。しかし、結論が出ない今、「三層構造は整備方針で、『うちが必ずやる』というものではない。みんなでルールを作り、努力しようという話」と、民間にデッキ建設を求める姿勢を崩さない。

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 ビルが全壊した小松原さんは、隣の電器店「せいでん」本店ビルとともに、共同ビルを新築する。負担は約三億円。ビル前に張り出しているデッキは取り払った方が安いし、早い。が、あえて完成まで橋脚で支えて保全する工法を選んだ。

 「商店街のニーズは、街としての線、さらには回遊できる面へと、変わってきている。一筋の光明が差したこの時、回廊構想を眠らせるわけにはいかない。将来が明るいわけではないが、真っ暗でもないでしょう」。その言葉には、決意がこもっていた。

1995/9/3

 

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