「地下の工事はすぐ三ケタになってしまう。ばく大な費用がかかるんです」。大阪市福島区の阪神電鉄本社。西川恭爾常務は、こう話して口元を引き締めた。「三ケタ」というのは百億円以上、という意味である。
そごう神戸店の地下に接した阪神電車三宮駅は、西側にしか改札口がない。乗降客には不便だし、災害時の避難路確保という防災上の問題もある。
一九八一年、博覧会「ポートピア81」で、三宮の顔・駅前の整備は進んだ。JR駅ビルができ、広場が生まれた。次のステップとして、地下駐車場や阪神の「東口」が課題になった。計画が具体化に至るまでに震災が襲う。
「三宮は梅田に次いで、乗降客が多い。三宮復興はうちにとっても大事なことだ。しかし、沿線の事業所、住宅も減った。経営は厳しい」と西川常務。
同社の鉄道部門の被害は、総額約五百八十億円。私鉄では最大だ。九四年度決算は、四十五年ぶりに約三十六億円の赤字を出した。国、自治体などから約二百七十五億円の災害復旧補助金が出るが、本年度赤字はさらに膨れ上がるだろうという。
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JR、阪神、阪急に市営地下鉄が乗り入れる三宮。「交通の結節点だけに、これまで以上に利便性が高く、安全、快適な街にしたい」と、神戸市は言う。
市が描く「駅前計画」の中心は、ビル群を地下、地上、空中の三層で結ぶネットワーク構想だ。地下では、さんちかを中心に既存の地下街や駅、さらに新設する地下鉄海岸線の駅を複数の通路で結ぶ。空中は、駅前南からセンター街に向け、いくつかの回廊が走る。
再建を目指す周辺のビルは今、構想との絡みも模索している。
「以前から建て替えを検討していたが、鉄道高架をまたぐ構造など技術的制約があった。震災ですべてが白紙になった。勉強会を始めつつあるが、『いつ』とは言えない」(仮設の神戸阪急ビル建設に着手した阪急電鉄)
「長く駅前のシンボルとして親しまれてきた。新聞社の社会的立場もあり、いつまでもそのままにできない。早く着手したいが、当面暫定的な利用も考えざるを得ない」(神戸新聞会館を所有していた神戸新聞社)
そごう神戸店は、取り壊した部分を、空間として残し、これまでなかった正面玄関をつくる考えだ。
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阪神電鉄側は、四月に構想を知った後、神戸市役所に何度も足を運んでいる。「東口はうちだけではとてもできない。互いにメリットがある。ぜひ一緒に」と申し入れている。
地下街、地下駐車場などの下に駅施設を造り、公共との合併事業にできれば、コスト的に助かるとの思いからだ。厳しい中でも、西川常務は決意を込めた口調で話す。
「この機会を逃すと、未来永劫(みらいえいごう)できない。駅周辺にかいわい性が生まれる。今回の事業はひとつの選択肢というものではない」
まだ全体像が見えにくい駅前で、「東口」は、数少ない官民の一致する計画である。
神戸市都市計画局の松下綽宏計画部長は「公共事業にして救う手はないかと考えている」としながらも「国とも相談しなければならない」と付け加え、「国」抜きに語れない復興の難しさを漏らした。
1995/9/9