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(14)先進地の模索 痛み 受け止め方で違い
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 「やや危険、というぐらいですね」

 横浜市緑区の越川亮二さん(65)の自宅を訪れた建築士は、設計図の壁量を計算、室内の壁の作りなどを丁寧に調べ、耐震診断の結果を告げた。

 築三十年の二階建て和風住宅。庭に面した一階南側は、縁側にそってガラス戸が並ぶ。大きく開いた南側は壁が足りないという。

 阪神大震災で、折り重なるように倒壊した多数の住宅が自分の家と重なった。「わが家も古い。大丈夫かな、と思っていた」。そんなときに、横浜市が新たに設けた制度を知った。

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 阪神大震災は、とりわけ地震災害と向き合う全国の自治体に衝撃を与えた。予想を超えた住宅の倒壊、圧死した多数の犠牲者。住宅の耐震強化を最優先課題として取り組みを始めた自治体は少なくない。建設省は都道府県に耐震診断士の育成、認定を求めた。その人材を活用して各市町村が耐震診断を行う。

 いち早く制度を取り入れた横浜市は、昨年十月、耐震診断士派遣制度を設けた。所有者負担を原則とする建設省に対し、市が費用二万九千円を全額補助する。

 「建築事務所協会に耐震診断の申し込みが相次いだ。時期が時期だけに関心が高く、多くの人に家の補強を考えてもらえると思い、制度をつくった」。同市建築審査課は説明した。

 三年間で一万二千件の診断を予定している。費用の約三億五千万円は市独自にねん出した。これとは別に壁の筋交いの有無を検査する機器を開発、二月から診断に活用する。

 静岡市は、昨年末から木造住宅に住む市職員全員の耐震自己診断を始めた。一九七〇年代後半から、市民に自己診断を呼び掛けたが、普及率はいまひとつだった。「震災で意識は高まった。職員を核に今のうちに地域へ広げたい」

 大阪市も昨年十二月一日、診断士を派遣する制度を設立した。三万五千円・六万円の費用のうち、半額を市が補助する。筋交いを点検する器具も購入した。

 出遅れが目立つのは被災地の兵庫県だ。やっと耐震診断士の講習準備が始まった。「復旧・復興に走り回る建築士らの都合を優先せざるを得ない。調整がつかない」という。

 事情は神戸市も似たり寄ったり。市は建築士による診断制度を受け持つが、「取り組めば効果が上がるだろう。だが、人材は限られており、補助制度を設ける財源もない」(住宅局指導課)。

 苦肉の策で、各区ごとに自己診断の方法を紹介する講習会の開催を検討している、という。「現状ではそれで精いっぱい」と言った。

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 耐震診断を受けても、家の補強に結び付くわけではない。先進地もそれぞれ壁に突き当たっている。

 「大きな工事になると百万円を超え、独自の補助制度はつくれない。国の支援がほしい」という自治体もある。

 耐震診断を受けた横浜の越川さんは昨年六月、屋根のかわらを鉄板にふき替えた。傷み始めたこともあるが、震災で大幅に早めた。工事費は年金で工面した。が、壁を増やす費用の見込みは立っていない。

 建設省は昨年十二月末、新たな法律で、学校や病院など公的な施設では耐震改修を促す自治体の指導、税制面の優遇策などを定めた。しかし、個人の住宅は住宅金融公庫の利子を新築の場合と同率の三・一%に引き下げただけだ。

 だが、横浜市は昨年十月、利率二・〇%の融資制度を設立した。震災から一年の一月十七日、無利子にまで引き下げた。

 教訓の重みをどう受け止めたか。対応の違いがそれを物語っている。

1996/1/25
 

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