「大工さんの仕事が丁寧で、しっかりした家をつくってくれてる」
倒壊した家がやっと建て直しにこぎつけた。喜ぶ女性店主の言葉に、建築家の田原賢さん(37)は困惑した。
建築家や研究者でつくる「木構造住宅研究所」のメンバーが、神戸市東灘区で再建中の住宅の施工調査を行った。震災の教訓は生かされているか・。
その店舗兼住宅は工事の最中だった。しっかりしたコンクリートの基礎で、壁は多かった。筋交いも入っていたが、端はクギ三本で留めていた。
「耐震性を考えているように見えるが、失格だ。補強の金物を使っていない。なぜ、金物がいるかが分かっていない」。田原さんはため息をついた。経験と勘に頼る仕事がまだ多い。
筋交いがあってもクギで留めていれば、引っ張る力がかかると抜ける。倒壊家屋では、そんな例が少なくなかった。筋交いの端など、接合部を補強する金属プレートの必要性は、震災後、繰り返し指摘されたが、生かされていない。
更地が広がる地域は、大手メーカーの工事用シートが目立ち、ツーバイフォーやプレハブの建築が進む。その間でぽつぽつと建つ在来工法の木造住宅を一軒ずつチェックした。
スギとヒノキを使った三階建て。コンクリートの基礎と土台の木材を留めるボルトの位置が大きくずれ、木材が割れていた。補修が進む二階建ては、新たに筋交いを入れていたが、土台と柱がずれていた。
初めて瓦屋根(かわらやね)の家があった。マツの太い梁(はり)で、スギを多く使う。「材料が素晴らしく、いい造りだ。田舎の大工の仕事のようだが、これが本来の普通の仕事だ。もう少し金物を使ってほしいが」。田原さんはやっと、まずまずの評価を下した。
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兵庫県によると、昨年四月から九月の間、県内で新築された持ち家のうち在来工法の木造住宅は四三%。前年度の六〇%から大幅に減少し、五割を割った。一方、プレハブとツーバイフォーは一・四・一・六倍と増加した。震災後、在来工法は苦戦している。
「在来工法でも技術さえあれば耐震性に問題はない。経験に新しい技術をプラスしないといけない。なぜ、今まで通りではよくないかを大工さんに提案していきたい」
同研究所は、震災後、木造住宅の被害調査を行い、危機感を募らせたメンバーが結成した。木造への愛着は強い。在来木造を発展させるためにも現状を厳しく見るべきと考える。
調査は、昨年十二月末までの約一カ月半に及び、約三百七十棟を調べた。うち在来工法の木造住宅八十六棟を詳細に分析した。
「合格といえるのは一、二割しかなかった」と、調査をまとめた大阪市立大生活科学部の土井正講師は話す。
筋交いの端の金属プレートの使用は約五割しかなく、適切な使い方は少ない。木造三階建ては七五%が床の強度に問題があった。
一・三階の通し柱の下に、柱を受けるべき基礎がない建売住宅もあった。基礎も削られて細く、筋交いは不良材が使われていた。明らかに違法建築。
「建築基準法など、最低限をチェックしたのに。これが当たり前になっていたのだろう」。土井講師らは改善されない状況を憂慮する。
「もう一度地震があれば、倒壊して死者が出るのではないか。それでは殺人だ」
1996/1/23