カウントダウンが終わった瞬間、木造住宅が揺れ始めた。
東西、上下の激しい震動。一年前の未明の悪夢がよみがえる。バキッと乾いた音が響いた。筋交いが折れ、モルタル壁の一部がはがれた。住宅メーカー関係者が緊張した表情になった。
「実験終了」。安全装置が作動し、十秒足らずで揺れは止まった。「少なくともつぶれることはなかった」。実験委員長の坂本功・東大教授はほっとした様子で話した。
香川県多度津町。瀬戸大橋を望む原子力発電技術機構多度津工学試験所で、実物の住宅を使った耐震実験が続く。世界最大級の振動台で阪神大震災の揺れを再現し、計六棟の木造住宅を試す。
「木造は弱いのでは」。そんなイメージの広がりに危機感を持った木造住宅メーカーなどが委員会を結成。建設省と林野庁の外郭団体「日本住宅・木材技術センター」が今月二十六日まで実験を行う。
「こんな大規模実験は初めて。今だから協力を得られる。次はないかもしれない」と坂本教授。安全のためにはデータ収集は欠かせないが、その機会はこれまでほとんどなかった。
この日、二階建て5LDKの住宅を振動台に載せた。南側の窓は大きく、壁の量は建築基準法ぎりぎり。あえて耐震性にやや問題のある家にした。
完全な状態で揺れに耐えることは確認済みだった。今回は、壁や石こうボードの一部を外し、筋交いも切って、七割まで強度を下げた。それでも倒壊はしなかった。
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昨年暮れ、西宮市でも京大防災研究所が解体予定の二階建て木造住宅の耐震性を調べた。
震災で地盤が沈下し、全壊判定を受けたが、構造的な被害は大きくなかった。築三十年。「宮大工が造ったらしい。ヒノキを使い、いい建物だ。地震前なら十二トンの力にも耐えそうだが、耐力は落ちているだろう」。同研究所の鈴木祥之助教授は説明した。
ワイヤを取り付け、水平に引っ張った。まず二トンの力をかけ、五百キロずつ負荷を増やす。五トンを超えると、バリバリという音が大きくなった。水平方向の変形は四センチ。京都の住宅で同じ実験をしたときには、八トンで壊れる寸前になった。
さらに力を加えるが、限界は来ない。十二トン、変形十二センチ。十二・五トンへ。突然、大きな音がした。ワイヤとクレーンをつなぐ滑車が、耐え切れずに壊れた。家は無事だった。
「予想以上の耐力」。鈴木助教授らは驚いたように話した。
在来工法の木造住宅は、法で定めた壁量を持ち、接合部を金物などで緊結し、常識的間取りなら、兵庫県南部地震のような強い地震でも倒壊しない・。新年早々の五日、日本住宅・木材技術センターは実験結果の速報を発表した。
「施工が適切であれば倒れない。大切なのは筋交いの端などの接合部を金物でしっかり留めることだ」。同センターの牧勉・試験研究部長は「崩壊は接合部から始まる」と強調した。
建設省と林野庁の木造住宅等震災調査委の中間報告は、倒壊の原因として、古い住宅は筋交いがないか、少なかったと指摘。新しい住宅の倒壊について、壁の不足やバランスの悪さに加え、接合部の緊結不良などを要因に挙げた。
きちんとつくれば地震に耐えることが、実験で確認されつつある。が、施工が適切でない住宅があまりにも多くあった。
1996/1/17