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(13)鈍い対応 施工不良にも腰重い国
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 「法律の想定以上に地震は厳しかった」

 アパートを所有する不動産会社は、設計に不備はなかったと強調した。

 芦屋市にあった二階建て洋風木造アパート。築三年だが、一階がつぶれ、平屋建てのような姿になった。学生一人が死んだ。

 壁の量は建築基準法を満たし、筋交いなどの接合部は金具で留められていた。スレートぶき、屋根は軽い。指摘された問題点はほとんどクリアしている。そんなアパートが倒壊した。

 建築家の田原賢さん(37)らは、設計図を入手して詳しく調査した。

 基準法で規定された壁量は満たす。が、地震などで力がかかった時、建物がどう変形するかを調べる構造計算では、西側の壁が不足していた。テラスやベランダに面して大きな窓があり、壁のバランスが悪かった。そのため接合部に想定の約五倍の引き抜き力がかかり、補強用の金具が役に立たなかったのである。

 「ちゃんと設計していれば、倒壊はしなかったのではないか。犠牲者も出なかっただろう」

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 建築基準法では、鉄筋コンクリートなどの建物は、構造計算が義務付けられている。しかし、木造住宅は、壁量を定めるだけで、配置については「バランスよく」と抽象的な表現にとどまる。新規参入のため、法律による制限が少なくないプレハブやツーバイフォーに比べ、よく言えば自由さがあり、規制は緩い。

 なぜか。多様性のある在来木造は、安全性を統一的に確保することが現実的に難しい。地震国でありながら、緩やかに段階的にしか対策が取られてこなかった理由もそこにある。

 昨年、導入されたPL法(製造物責任法)。製品の欠陥を証明すればメーカーに賠償が求められるが、住宅は対象から外れた。

 建設省官房政策課は「数多くの部材でつくる住宅は、欠陥が部品段階のものか、施工段階のものか判断しにくく、PL法が想定する製造物といえない。海外でも対象にした例はない」と言う。

 現場はどうか。消費問題に詳しい後藤玲子弁護士(神戸弁護士会)は「PL法のような法律ができれば消費者に有利になるが、抜本的な解決にはならない」とし、続けた。「住宅の欠陥証明には、地域性などを踏まえた標準的な工事を立証しなければならないが、不可能。そこに消費問題としての難しさがある」。

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 日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会は、震災を教訓に昨年夏、欠陥住宅への取り組みを決めた。委員長の木村達也弁護士(大阪弁護士会)は「実態はほとんど分かっておらず、差し当たって検査の強化を図れないか、行政の検査が何段階も入るアメリカ方式を参考にしたい」と話す。

 三月半ば、全国の弁護士会で「住宅一一〇番」を開設し調査を行う一方、四月にアメリカ西部を視察する。

 阪神大震災以後の建設省の調査で、住宅の施工不良は被害拡大の大きな要因と分かった。厳然とした事実を前に、やっと腰が上がりつつある。

 検査体制の改善を検討中とする建設省建築指導課は「一、二年後、審議会の答申を受けて対応を考える」という。

 だが、「施工不良の内容、程度をはっきりさせるのに調査が必要だが、行政がするのか民間の第三者機関に任せるか、検査の内容も決まっていない。規制緩和の流れがあり、拙速にできない」とした。

 住宅十万戸以上が全壊し、四千二百人が「圧死」した戦後最大の震災。住宅の施工不良を要因としながら、動きはまだ鈍い。

1996/1/24
 

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