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(8)失われた基本 「命」より経済効率優先
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 大工の西島真喜男さん(51)は、神戸市東灘区で自宅建設の準備に取り掛かっている。土地は見つけた。二十年間、住み親しんだ文化住宅にも近い。

 文化住宅は一階が崩壊、二男は落下した二階に押しつぶされ「圧死」した。かつて水田だった敷地は地盤が弱く、基礎がめちゃくちゃに壊れた。

 「しっかりした基礎、そして部材を金具で留める。安全な家はそれしかない」。被害を受けた自宅や、震災後に修理で入った家を見て、あらためて基本の大切さを痛感した。そんな家を造ることが、息子の供養と自分に言い聞かせている。

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 「基本を守っていない住宅が多数残っている」

 クリスマス寒波の雪が積もる金沢工業大の研究室で鈴木有教授は指摘した。大きな地震による木造住宅の被害の調査、研究を続けている。

 震災翌日、教授は朝一番に被災地へ向かった。JRと阪急電車を乗り継いで西宮北口へ。翌日と二日間、東灘区にかけて六十キロ歩いた。被害の大きい地域はJR東海道・山陽線に沿って、帯状に広がっていた。

 「日本住宅・木材技術センター」が実施している実験では、施工が適切なら強い地震にも十分、耐え得ることが確認されつつある。が、教授は耐震の基本を忘れた工法を何度も目にした。

 神戸市東灘区で調査した二階建ての住宅は築約三十年。柱やはりの接合部が外れ、一、二階が大きく傾斜。外壁、内壁も粉々に崩れ落ちていた。

 バランスの悪さが挙げられる。重い土ぶきの屋根に和がわら。壁は土塗りの下地にモルタルを塗り、重さを増していた。横揺れから守る筋交いは入っておらず、建設材の接合部に金具が使われていない。

 「壁や柱などに家の重量に応じた配慮がない。これは福井地震(一九四八年)の被害原因とまったく同じ。過去の教訓で得た基本方針が忘れられていた」とし、そうなった理由の一つを「経済効率が最優先され、施主も工務店も安全性を軽視していた」と指摘した。関西に地震はないとの思い込みが、拍車を掛けた。

 被害の大きい地域は鉄道の開通で、最初に発達した地域であり、高度成長期以後の都市基盤整備からこぼれた古い家が多数残っていた。明治初期の地図では、人の住んでいない湿地や河川のたい積地が多かった。

 「家造りには土地形成の歴史を知ることが重要。そのためにはきめ細かい地盤の情報公開と、条件に合った設計指針づくりが必要だ」。鈴木教授は強調した。

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 終戦直後から、家を造り続ける神戸市中央区の大工(67)は、教授が指摘した効率優先の厳しい現状を嘆いた。

 かつては一軒の家に十数人の職人で掛かった。仕事をよこす工務店が、手間賃を抑えることが多くなり、今では三人から五人程度。日程にも余裕がない。

 大工は二つの建設材を接合する「ほぞ穴」を例にとった。

 「仕事を始めたころは、柱を突き抜けるほど深いものが普通だった。丈夫さより手間を省くために今は約三センチと浅い」。施主や住宅金融公庫の点検がなければ、金具留めを省略することも少なくないという。

 鈴木教授は「行政、研究者の責任は大きい。が、職人、住民にも責任なしとはいえない。住宅は命を守るものであるという視点を欠いてきたことが油断となって、住宅に数多くの弱点を生んでしまった」と悔やんだ。

1996/1/19
 

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