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「ガンバロー、神戸」-。MVPに選ばれたニール選手がスタンドに向かって叫んだ。被災地の市民の声援を受けたオリックス・ブルーウェーブが二十四日、本拠地、グリーンスタジアム神戸で巨人を破り、念願の日本一に輝いた。「がんばろうKOBE」の文字をユニホームに着け、二年にわたって被災者に希望を与えてくれたナインたち。超満員のスタンドで、街角で、拍手と万歳が沸き起こった。復興への道はなお険しいが、震災から二度目の秋に届いた大きなプレゼント。ナインとファンが一体となってつかんだ勝利に、夜の神戸は祝勝ムード一色に包まれた。
スタジアム
仰木監督が宙を舞うと、総立ちのスタンドは最高潮に。駆け寄る選手たちに、次々に感謝の言葉がかけられる。「イチロー」「ニール」。スコアボード下は「V・NO1」の真っ赤な花火。「おめでとう、ありがとう」の横断幕が振られ、メガホンは鳴りやまなかった。
「震災で神戸から加古川の仮設住宅に移り、苦労は続いているが、今夜はそれを忘れさせてくれた。感動し、ナインに勇気づけられた」と話す重田義之さん(61)は、その瞬間、隣のファンに抱きついた。
大阪府吹田市の関学大二回生の永谷英暁さん(23)は「昨年のシリーズ戦は震災で亡くなった先輩の遺影を抱いてスタンドで応援した。念願のシリーズ制覇を果たし、先輩も喜んでくれていると思う」。
リーグ戦、シリーズ戦を通じてスタンドの応援をまとめてきた河内毅応援団長(53)は「感無量。ナインとともに歩んできたと実感している。きょうは心から喜ばしてもらった。来年はシリーズ二連覇を目標に応援を続けたい」と喜びをかみしめていた。
生田神社
毎年、選手らが必勝祈願に訪れる神戸・三宮の生田神社。ライトアップされた境内は約二千人が総立ちとなり、バンザイを繰り返した。カップルや友人同士が抱き合い、涙を流す。待ち望んでいた瞬間がやってきた。
大型スクリーン前の特設ステージでは、球団関係者や地元商店主らが「オリックス日本一おめでとう」との掛け声を上げ、威勢よく四斗だるの鏡割り。高さ一メートル近くあるケーキにもナイフが入れられた。詰めかけたファンはマスや紙コップを片手に声を合わせて乾杯した。
山口県下関市から神社に一番乗りした会社員、池田真由美さん(26)は「震災の時は選手に被害がないか、心配だった。優勝をずっと信じてきてよかった。神戸のみなさんに『ありがとう』と言いたい」と目をうるませた。
南京町
ドラや太鼓を鳴らしながら応援を続けた神戸・元町の南京町広場では、約五百人が立ち上がって、バンザイ三唱。爆竹が鳴り、シャンパンが勢いよく抜かれた。竜踊りも披露され、夜の繁華街に歓声が響いた。
神戸市長田区の松崎正行さん(66)は、震災で自宅が半壊し、半年間、仮設住宅で生活した。「今も仮設で暮らす仲間たちも喜んでいるはず。オリックスの日本一が、神戸のみんなを元気づけてくれるはず」と声を弾ませた。
ハーバーランド
トランペットなどの演奏に合わせ、ファンらがメガホンを打ち鳴らしながらテレビ観戦を続けた神戸ハーバーランドの商業施設「モザイク」の特設会場。その瞬間、「やった」「日本一や」と、海辺に約千人の叫び声が響いた。
くす玉が割られ、クラッカーがさく裂。仰木監督の人形がもみくちゃにされながら胴上げされた。「オリックスは神戸復興のシンボル」と、司会者が掛け声を上げると、ファンから万歳三唱が起こった。
姫路市の公務員、三木和成さん(45)は「より近い所で胴上げを見たかった。このパワーで何とか復興への足掛かりをつかみたい」と興奮気味だった。
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