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阪神大震災の発生時、阪神高速道路神戸線の倒壊に巻き込まれて死亡した会社員の遺族が、阪神高速道路公団(北村広太郎理事長)を相手に、国家賠償法に基づき約九千二百三十万円の損害賠償を求める訴えを十六日にも神戸地裁尼崎支部に起こす。同高速では、湾岸線も含め十六人の犠牲者を出したが、提訴に持ち込まれるのは初めて。遺族は「倒壊原因をすべて『想定外の地震力』とする公団の姿勢は納得できない」とし、道路の設置管理に落ち度がなかったかを争う。
訴えるのは西宮市甲子園浦風町、無職萬(よろず)みち子さん(73)。
訴状などによると、長男の英治さん=当時(51)=は一九九五年一月十七日午前五時四十六分ごろ、会社のマイクロバスで同市甲子園高潮町の神戸線を神戸方面へ走行中、高架道路を支えていた単柱橋脚が地震で倒壊し、橋げたが落下。バスごと滑り落ち、全身を強く打つなどして即死した。
原告側は、阪神大震災を過去の地震と比較し▽もっと規模(マグニチュード)の大きい地震は関東大震災以降だけで十六回ある▽最大加速度は米国西海岸で起きた同じ内陸都市直下型のロマプリエタ、ノースリッジ両地震の方が大きかった、と指摘。
さらに、問題の橋脚について▽八一年の供用開始区間で橋脚が倒壊したのは今回の現場だけ▽沿道建物はほとんど被害がない▽倒壊橋脚の多くで鉄筋のガス圧接不良などが見つかり、今回の橋脚も同様だったと推測できる、などとしたうえ、「橋脚倒壊は予測できない大地震が原因ではなく、設置管理に落ち度があり、高架構造の道路橋脚として『通常有すべき安全性』を欠いていたため発生した人災」と結論付けた。
神戸線は、神戸市東灘区内で六百三十五メートルにわたり倒壊するなどしたが、建設省は「耐震基準に適合しており、被害は設計を上回る大きな揺れを受けたため」と最終報告。これを受け、公団は震災後、一切の「落ち度」を認めてこなかった。
原告側弁護団は「公共物である道路は、家屋などより高い安全性が求められる。それなのに、これほど倒壊したのは欠陥があったとしか考えられない。建設省の報告は『そんなに立派ならなぜ壊れるのか』と言いたくなるほど問題が皆無としているが、基のデータを公の場に持ち出させる点でも、提訴には意味がある」とする。
これに対し同公団広報課は「倒壊の原因については調査報告書に基づき遺族にも説明した。感情的な問題もあり、理解していただけるのは難しいと思うが、生活再建の援助についてはできるだけのことを考えている。訴訟については訴状が届いておらずコメントできない」としている。
メモ
<国家賠償法二条一項>
道路、河川その他の公の営造物の設置または管理に瑕疵(かし=落ち度)があったために他人に損害を生じたときは、国または公共団体は、これを賠償する責任がある。
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