■ 公的支援 枠組みできたけれど…
善意の義援金に頼るだけでは、生活や住まいの再建が立ち行かない。被災地から国のあり方を問う運動は、市民の声が行政や政治を巻き込む形で「被災者生活再建支援法」を生んだ。災害での公的支援を初めて位置づけた法成立から1年2カ月。制度が実際にスタートする今春まで、全国では豪雨などに見舞われた7県16自治体で「前倒し支給」が行われた。現金支給へ踏み出した仕組みへの評価は高いが、現場では対象や支給の仕方で課題も目立つ。同様の措置が行われた阪神・淡路大震災の被災地では、支給額の低さや、世帯を基準にした支給の問題を指摘する声もある。浮かんだ問題点や課題を探る。
■豪雨水害禍の栃木・那須町
家ないのに家具しか買えない 複雑「制約多すぎる」
昨夏から相次いだ豪雨水害。この時すでに被災者生活再建支援法は成立していたが、財源の支援基金へ都道府県がどの負担割合で拠出するかで調整は遅れ、政府は開始までの特例として同様の救済を決めた。
栃木県那須町。余笹(よささ)川河川敷では豪雨から一年過ぎた今もショベルカーがうなる。倒れた竹やぶのそばのえぐれた土だまりが、弓座昭夫さん(49)の店舗兼自宅の跡。今は統廃合で使わなくなった小学校校庭の仮設住宅に住む。町営住宅のあっせんも受けたが、慣れた地で商売を再開するため仮設を選んだ。六畳と四畳半に三世代六人が暮らす。
再建には土地も含め数千万円はかかる。災害後、支援金を申請したが「ややこしいことが多過ぎた」といい、役場に何度も問い合わせた。支援金で実費支給される「特別経費」枠(左記「支援法の課題」参照)を利用するため、クーラーや家具も買った。でも本当に欲しいのは住宅。「家がないのに、家具にしかお金が出ない。順序が逆です」
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支援法前倒しが決まると、国土庁は被災者説明会を求めたが、那須町は拒んだ。「所得が条件外の人に対し『お金は出ない』としか言えないから」(同町課長補佐)だ。代りに町職員が調べ、全壊二十世帯から法の対象となる八世帯を特定し、個別に申請を促した。その一人、高久政雄さん(51)は「屋内照明に十万円かかったが、実費支給の対象ではない。品目の線引きの意味がわからない」。
同町の全壊世帯の多くは弓座さん同様、土地も流され、土地購入と自宅再建の重荷を背負った。結局支えとなったのは義援金だった。全国から三億七千万円が寄せられ、全壊で七百万円、半壊で四百万円が配られた。支援法の対象外の一部損壊や浸水世帯にも五十万・三万円が配布された。
「支援法で、なぜ、これほど複雑な条件や区分が必要なのか。税金だから、義援金のようには出せないにしても、もっと簡潔に支給できないものか」。現場を踏んだ那須町幹部は疑問を投げかける。
■台風禍の奈良・五條、御所市
大半が半壊 適用外 個人実情即せず
奈良県南西部、和歌山県境近くにある五條市。人口三万六千八百人余。同県で最も小さな市では昨年九月、台風7、8号が吉野川を挟んだ集落などに大きな被害をもたらした。三十六世帯が全壊、六十世帯が半壊被害を受け、三十数世帯が支援金の適用を受けた。
「市民からは住宅再建資金の一部にしたいという申し出もあったが…」。同町課長補佐は振り返るが、解体証明がないと受け付けられないため、半壊世帯から対象世帯は出なかった。
同時に支援法制度の「特別経費」枠(上記「支援法の課題」参照)への不満も強い。複数世帯の場合、支援金は概算払いされる通常経費(七十万円)と、領収書が必要な特別経費(三十万円)に分かれるが、「着の身着のままの状況で、領収書がないと支給しないのはどうか」と訴える。例えばエアコンの場合(支給限度額十八万五千円)、申請時は半額支給で、手元に九万円の資金が必要となる。
さらに特別基準の支給には十三カ月以内の申請期限が設けられ、「新しい恒久住宅に移ってから家具を買いたい」という要望にもこたえられなかった。
一方、同県御所市の台風被害は全壊一、半壊三百二十八世帯。被害の広がりにもかかわらず、支援金対象はわずか三件で、ほとんど適用できなかった。
同市では昔ながらの大きい家が目立ち、解体だけでも二百万円はかかると言われる。「建て替える人は所得が上位で法の対象外。一方、所得条件に合致する世帯は、資金のめどがつくまで解体と建て替えを見合わせる。結局、この地域で支援金制度は使えない」と同町担当者。地域の実情に合った支援法運用も今後の検討課題と言える。
(社会部・小野秀明、西海恵都子、小西博美、金井恒幸、東京支社・藤井洋一、坂口清二郎)
1999/7/25