連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(5)実感なく今も仮住まい 総額900万円に達するが…
  • 印刷

 家を失った人は、公的支援でどれだけ生活再建できたのか。全壊世帯が十八万を超える中で、町の大部分が焼失した神戸市須磨区千歳地区の例を紹介する。

 私たちは、住民の協力を得て震災翌年から毎年、アンケートを行ってきた。千歳地区まちづくり協議会副会長の神谷昌さん(67)が、垂水区の仮設住宅から引っ越したと聞き、訪ねた。

 神戸市長田区御屋敷通。千歳地区に隣接する町のワンルームマンションが二度目の仮住まいだ。
 「間取りも広さも、仮設と同じですわ」。そう言って、迎えてくれた。
 妻と二人暮らし。四年半に受けた支援は、神戸市試算を参考に、換算すると七百万円に達する。

義援金など三十九万円
自宅解体二百三十万円
仮設住宅建設・撤去三百三十九万円
被災者自立支援金百五十万円

 区画整理を待つため、今の家賃月七万円も全額補助。期限いっぱい二年間住めば百六十八万円に上る。これを加えると、総額は九百万円を超える。

    ◆

 神谷さんの部屋。次の引っ越しに備えて必要なものだけを出し、あとは段ボール箱に詰めたまま。次は、千歳での自宅再建だ。

 大阪に住む息子一家との二世帯住宅で、図面もできている。自分の土地十三坪に、震災後に買い受けた隣人の土地を合わせ、約三十坪を所有する。

 仮換地まで終えたが、換地先には元の住民が仮設の住宅を建て住んでいる。その住民が移り、仮設を撤去してようやく再建できる。
 「それぞれ事情があり待つしかないが、四年半待って、まだ待たないかん。しんどいことですわ」
 震災の六年前、退職を機に自宅を建て直した。三階建て。鉄骨を組み、外壁には防火用建材を使った。地震の直後、家の中に火が回ったが、家自体は崩れずに残った。壁紙を張り替え、手を加えればなんとか住める、と思った。

 が、神戸市からストップがかかった。「区画整理にかかるから、結局は家をつぶすことになる。今なら解体費用が公費で出るが、後でつぶすなら自己負担」
 神谷さんは資金不足もあって修理をあきらめ、仮設住宅に移った。

    ◆

 「支援を受けた実感はない。現実に仮設やワンルームの仮住まいが今も続く。本当につらい」
 神谷さんの場合について、前述の試算をベースに考えてみる。

 震災直後に二百万円でも支給があれば、自宅を修理することができた。区画整理の後、住宅解体費用を公費で負担するとして、その費用が二百三十万円。先の二百万円と合わせて四百三十万円になる。

 支援額は今より低い。けれども被災者にとっては、不自由な仮住まいがない分、この方がありがたい。効果的、といえないか。
 「現実に、四年半の間に住民は疲れ果て、戻る気力がなくなっている。ようやく地区に住民の受け入れ住宅が建ったが、空き室が目立つ」
 区画整理。公的支援。いずれも被災者のためでありながら、個々の事情に関係なく事が進む。そのむなしさ、寂しさが募る。

 神谷さんは昨年夏から、公的支援拡充を求める運動に加わった。運動と名のつくものは初めての経験だ。

 今のままでは、大災害が起きると、また被災者が救われない。そう断言する。

1999/7/22
 

天気(9月8日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 40%

  • 33℃
  • ---℃
  • 50%

  • 34℃
  • ---℃
  • 20%

  • 34℃
  • ---℃
  • 40%

お知らせ