阪神大震災の被災者への支援措置として昨年七月、自立支援金制度ができた。その時、女性(60)は全壊のり災証明を手にした時と同じ安ど感に浸った。
この二十日、神戸で開かれた支援金制度を問う集会で、彼女の話を聞いた。
震災当時、神戸市長田区で一人で暮らしていた。岡山の市営住宅を経て、姫路の仮設住宅に移った。被災者への公的支援を求める運動に共鳴し、国会議員への陳情に参加したこともある。九七年十一月、姫路で知り合った揖保郡太子町の会社員(59)と結婚した。
夫は被災者ではない。しかし、被災した自分に支援金を受ける資格がないとは思わなかった。申請は、世帯主が条件。届けていた住民票の世帯主を、夫から自分に変えて申請した。
届いたのは、却下通知。神戸市に問い合わせると「あなたは保険証では扶養家族になっている。世帯主であることを証明する書類がいる」と言われた。
結婚したが、夫が高収入でもない。事実、世帯の総所得は五百十万円以下で、支援金受給が可能な層に入る。何より、彼女が震災で多くのものを失ったことが、今の生活に確実に影響していた。
「制度ができるまでに三年半かかったため支給対象から外れた。これは政治の怠慢で、私の責任ではない。納得できなかった」
弁護士と相談し、却下処分の取り消しを求める訴訟を起こすことを決めた。
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支援金制度は、昨年五月成立した生活再建支援法の行政措置として講じられた。法律のそ及に代わるものだ。
制度の実施要項第三条第一項。「世帯主が被災していること」とある。制度ができた九八年七月一日を基準日とし、この時点で支給資格を判断する。このため震災後、結婚や親族との同居で世帯主でなくなった被災者が対象から外れてしまった。
制度を担当する兵庫県・生活復興推進課の小畠寛課長に説明を求めた。
「三年半の間に被災者の世帯構成は変わった。その変化に対応することで対象を広げたつもりだ。どこかで線を引かねばならぬのなら、より多くの被災者が救えるよう考えざるをえない。行政の宿命だ」
非世帯主となり、支給されない被災者がいる一方で、結婚などで独立し、新たに世帯主となって支給対象になった人もいる。後者の方が多い、という認識だ。
支援金について、同課は当初、支給世帯を十三万四千、総額千二百五十億円とはじいていた。来年四月二十八日までの申請期限を前に、支給額はすでに五月末時点で十三万三千世帯、千二百八十六億円に上っている。
「支援金制度では、支援法にはない一括支給や細かくお金の使い道を限定しない形を実現した。震災後の月日を考慮し、相当踏み込んだと思う」
小畠課長が強調した。
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支援金制度には、長い年月で変化した被災者の今の状況への対応と同時に、三年半の支援の不足を埋める柔軟さが求められる。
女性の代理人の伊賀興一弁護士は、集会で訴訟に取り組む理由を話した。
「世帯主でなくなったから、生活再建できたとみるのは、被災実態をとらえていない。そもそも被災者の声が支援法と支援金制度をつくらせた。どの被災者にも有利な形で取り扱うのが筋ではないか」
1999/7/24