■高寄昇三・甲南大教授に聞く
直後の現金支給効果大 義援金 行政救済以外に
道路などの社会基盤がほぼ想定通りに復旧を見せた被災地で、時間の経過とともに格差の広がりを見せた暮らしの再建。「個人補償はできない」という国の既存の枠組みのなかで、生活再建への支援の方策は限られ、救済の網から外れてしまう被災者が出た。自助努力の限界を政治が追認し、生活再建支援法という形で公的支援を位置づけたのは、震災から3年4カ月が過ぎた昨年5月だった。被災地の苦い経験が指し示す教訓は何か。その経験から生まれた支援法などの生活再建施策を、今後どう育てて行けばよいのか。1面連載「震災からのメッセージ 『支援』ということ」最終回に合わせ、被災者支援を検証している高寄昇三・甲南大教授に聞いた。
-阪神・淡路大震災での生活再建支援を評価すると
「決して低い水準とは思わない。ただ、日本の(救済の)基本は現物支給で、避難所運営から仮設住宅、公営住宅提供・となる。アメリカは現金支給。日本はアメリカの二・三倍の支援額となるが、評価が低い。行政効果や市民ニーズへの対応という点から見ると、現金支給の方がはるかに効果的だ。市民ニーズに即さない形で公費が投じられたことが問題だ」
-実際の支援での不都合を挙げるとすれば
「全体として六十五歳以上の高齢者に手厚かった。これに対し、二重ローンを抱えた人や自営業者はあまり救済がなかった。税の減免は高所得層に手厚い。結果的に不公平をもたらした。年齢や所得などの基準を組み合わせず、各基準ごとに支援メニューを設ければ、救済の偏りを緩和できたのでは」
「また義援金は、二重ローン救済やボランティア支援など、行政による救済が難しいものに使うべきだと思うが、復興基金も義援金も行政による支援対象と似ていた。全体が相互補完的になっていない」
-生活再建支援の仕組みの欠如も指摘された
「日本の行財政全般の問題だ。ハードの復興では国の補助率がアップし、対策を進めることができた。基本となる仕組みがあった。が、生活再建にはなかった。国は被災自治体や被災者にお金を渡し『自由に使いなさい』ということはしない。少しずつさみだれ式に渡す。だから効果が薄く、選択の自由もない」
「その意味で支援法は、被災地が勝ち取った制度だ。ただ、一部の購入品について領収証をもらい実費支給する枠組みがある。これでは現物支給と大差がない。選択の自由がなければ、効果が半減する」
-そうした経験を踏まえ、どんな提案を?
「ある一定の被害以上の被災者には震災直後、一律に現金支給する。そのかわり、現金を受けた人は仮設住宅にも公営住宅にも入れない。現金を受け取らない人だけが仮設住宅に入れるようにする。仮設住宅建設費が約三百万円だから、支給額もそのあたりが妥当では。同時に、死亡者が対象の弔慰金や税減免、貸付などを総合的に見直すべきだ」
略歴 たかよせ しょうぞう 1960年に神戸市に入り、企画部門を中心に85年まで勤務。現在は甲南大経済学部教授、財団法人神戸都市問題研究所常務理事。専門は地方財政。近著に「阪神大震災と生活復興」(勁草書房)がある。65歳。
(社会部・森玉康宏、磯辺康子)=第21部おわり=
1999/7/25