公園やショッピングモールなどで、子どもが大騒ぎしたり、物を振り回したりしている場面に遭遇したことはないだろうか。迷惑には違いないし、けがをしたらまずい。「注意したろ」とは思っても相手はよその子。親に“逆ギレ”されても厄介やし、と結局見て見ぬふりになりがちだ。子は地域の宝。叱ってあげたいけど…。皆さん、どうしてますか。(伊丹昭史)
よその子と接する機会が多いのは、まず母親。兵庫県川西市の子育て支援施設を訪ねてみた。集まっていた母親22人に「よその家の子でも叱るべき?」と聞くと、手を挙げたのは20人。実際に叱ったことのある人も18人いた。
8歳と4歳の子を持つ女性(36)の近所では夕方、子どもが10人ほどで遊ぶのが日課。見守りながら、危ない遊びや変な言葉遣いを叱っているという。「お母さん同士の仲が良い。分かってもらえるから安心して叱れる」。一方で4歳の娘を連れた女性(44)は「よく知らない子だと親の方針が分からない。多少は目をつぶる」と慎重だった。
親同士の交流が少なそうな父親はどうか。伊丹市の父子の遊び場「ととりば」では「遠慮派」が多かった。3歳の息子と参加した同市の会社員男性(41)は「叱るけど優しく言う。泣いてしまったら別の問題が発生する」と苦笑する。
昔は近所の人に所構わず叱られた。「それは近所のみんなが知り合いやったから」とは猪名川町広根地区の男性(68)。近隣のニュータウンの子には「叱りにくい」という。同地区の男性(73)は数年前、通学路であいさつを返さない中学生数人を叱ったものの、後で「親に『何の資格で』と思われたら困る」と考え、県の「地域安全まちづくり推進員」に登録した。「叱る側も誠実さが必要。相手にも伝わればいいんやけど」と話す。
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■理由説明、叱る以上に褒めて
よその子を立場上、叱らないといけない人もいる。スムーズにできる方法はあるのだろうか。
「親のようにピシャっと言えない分、理由をちゃんと説明する」とは、宝塚市総合福祉センターで毎月2回開設される「たからづか子ども食堂」の織田貴子副代表(47)。食後に館内を走り回る子どもたちに「けがしてセンターに迷惑をかけたら、場所を使わせてもらえなくなるよ」と説明。「自分だけの問題でないことも理解してもらう」という。
伊丹市立中央保育所では、担任以外も園児の性格や家庭状況に応じた声掛けができるように、情報交換を密にしている。叱るときは子どもの言い分を聞き、理由を話し、理解できたかを確認。園児の親への説明が保育士と食い違わないよう防ぐ目的もあるという。
叱られた時の園児の成長は親に伝え、喜びを分かち合う。谷口美鈴所長(60)は「自分の子に好かれる保育士を親は信頼してくれる。叱る以上に褒め、認めることで、子どもはその人に叱られることを受け入れられるようになる」と話している。
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■子ども通じ、地域交流を 兵庫教育大・名須川副学長に聞く
よその子でも遠慮せず叱れる社会であることに越したことはないはず。何かヒントはないものか。幼児教育や子育て支援などが専門の兵庫教育大学、名須川知子副学長に聞いた。
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よその子も叱るためには、大人同士の信頼関係が必要。我が子が叱られても「あの人が言うんだから、この子が悪かったんだろう」と思えるようになる。
ただ、今は母親が孤独になりがち。子育ては子どもと一対一なので元々孤独感が強いが、昔は「大変でしょう」「このぐらいの熱なら大丈夫」と声を掛けてくれるサポート役が地域にいた。今は効率を求める社会になり、夫も含めて、みんなが忙しい。母親は周りに目が行きにくく「我が子主義」になりやすい。他人が子を叱りづらくなる。
地域交流が希薄になったことと少子化は関係があると思う。地域をつなぐのは子ども。昔は村祭りなど、子どもの行事がいろいろあって、大人が手伝うことで交流できていた。
今は子育て支援ルームなどが増え、母親らが相談したり友達をつくったりできるが、地域でもやれることはある。例えば、マンションの草むしりなどを年2回でも住民がやる。子どもは張り切って草を集めるなどして場をなごませ、大人同士をくっつけてくれる。「子ども祭り」など子どものための行事なら、子のいない人も含めて協力を得やすいと思う。