2014年から兵庫県伊丹市で開催され、今年は大阪府池田市に会場を移す「GREEN JAM(グリーンジャム)」(9月18、19日)。関西最大級の無料ローカルフェスを引っ張るのが、実行委員長で一般社団法人GREENJAM代表理事の大原智さん(38)だ。「僕たちの文化祭」と語るGREENJAMに懸ける思い、移転の経緯、今後の展望を聞いた。
【どこが多様性やねん】
-20、21年はコロナ禍のため伊丹市の昆陽池(こやいけ)公園で開催できず、今年は池田市の猪名川運動公園に会場を移します。
「3月の時点で(公園を管理する)伊丹市に、開催を一緒に目指してくださるつもりはありますかって聞きました。市からは(感染状況が見通せず)今年も難しいと。ただ、個人的には開催地を変えてでも、絶対やりたいと。実行委員のコアメンバーからも、やめておこうっていう意見は一人もなかったですね」
-なぜ今年はそれほど強い思いを?
「単純に、やりたいっていう情熱はありましたね。(昨年は開催できず)もう悔しいしかない。以前は多様性という言葉がよく使われていたのに、コロナ禍になると(制限ばかりで)どこが多様性やねん、みたいな社会になってしまった」
「GREENJAMは地元のママさん、幼稚園の子どもたち、全国レベルのアーティストが、イベントのつくり手になっています。来場者の中には音楽好きもいれば、ステージに背中を向けて水遊びをしている子もいる。そういう多様性に僕自身がひかれ、美しいと感じているんです。だから、今こそやりたいと」
【なぜ池田市に】
-池田市を選んだ理由は?
「伊丹市内では、昆陽池公園以外は事実上、開催できる場所がないんです。幼稚園児や小学生は遠足で行く。毎朝ジョギングしている人もいれば、太極拳をやっている団体もいる。そういう(多様な)空気感の場所って昆陽池公園しかない。公園の理想形なんです」
「池田市を選んだ理由は二つ。まずは近ければ近いほど、今まで関わってきた方々が引き続き関わるハードルが低くなる。尼崎や宝塚など近場で4カ所ほどピックアップしました。その中で猪名川運動公園だけが、コロナ禍でも野外音楽イベントを開催した前例がある。だから、行政側の心理的ハードルが低いだろうなと考えました」
「二つ目は、池田市とは既に関係性があったこと。これまでのGREENJAMで池田の団体が会場のデコレーションをしてくれるなどつながりがあるので、池田市での開催のイメージが湧いたんです」
-とは言っても池田市での人脈は少ないですよね。
「めちゃくちゃ大変ですよ。7月からほぼ毎日池田に行って、いろんな団体さんに『こういう思いで、こういうイベントをやっている』って話をしています」
【地域とは、社会とは】
-地元以外での開催に、なぜそこまで。
「僕は地域や街の名前では物事をあまり考えられない人間なんです。僕にとっての『伊丹』は(実行委員の)25人であり、GREENJAMを応援してくれたり、普段関係したりしている人なんです。同じように、僕にとっての『池田』は、GREENJAMに関わってくれる一人一人。その人たちに貢献したいと思っているんです」
-自分に関わる人を軸に考えると。
「そうですね。地域活性とか社会貢献という言葉がよく使われます。全く否定はしないし、素晴らしいことだと理解はしています。でも、『あなたにとっての地域とか社会って定義できているんですか』って思うんです。僕は経験したことも見たこともない『地域』や『社会』という概念を自分ごととして考えられないし、豊かにしたいとは思えない。僕にとっての地域や社会は、家族だし友達だし、GREENJAMを一緒につくっている人たちなんです」
【COMINGKOBE】
-そもそも、14年にグリーンジャムを立ち上げた経緯とは。
「二つの要素がありました。一つはCOMINGKOBE(※)の影響。(代表を務めていた)松原裕さんは『スタークラブ』っていう神戸のライブハウスにアルバイトで入って後に店長になったんですけど、僕は高校生の頃からバンドをしていて、松原さんのもとで育ったんです」
「松原さんは、一度やるって決めたら気合で押し通すんですよ。その熱量はすごいとしか言いようがないし、周りの全員に飛び火する。僕は彼がやってきたことを間近で見ていた。フェスの開催って、お金のことや行政との交渉などハードルが高く感じるかもしれないけど、僕は松原さんのおかげで『できるやろう』って思えたんです」
「二つ目の要素は、イラストレーターやダンサー、カメラマンとか、クリエイターの卵みたいな子たちが周りにめっちゃいたこと。『俺らでフェスしたいよね』って、自然とそういう方向に行きました」
※COMINGKOBE(カミングコウベ) 阪神・淡路大震災から10年となる05年に神戸市で始まった無料チャリティー音楽イベント。音楽プロデューサーの松原裕さんが震災の支援に感謝を伝えようと企画・運営。募金を震災遺児や被災地に送った。松原さんは腎臓がんのため、19年に39歳の若さで死去。その後も実行委員会は「神戸からの恩返し」を合言葉に開催を続けている。
【無料の理由】
-ところで、無料フェスを続けるのはなぜですか。
「グリーンジャムを『商品』にしないためです。商品にしないことで、世代やジャンルやクオリティーを優先的に気にする必要がなくなる。チャレンジしたい気持ちさえあれば、いろいろなつくり手が関われるんです」
「今年も地元の幼稚園児やママさん、大学生がつくるブースやコンテンツ、エリアなどがあります。ご来場いただく皆さんと何ら変わりない方々がイベントの大部分をつくっています。だから、グリーンジャムは年に1度の『僕たちの文化祭』なんです」
-費用は?
「初年は兵庫県の補助金を使いました。それが運営費の半分くらい。残りは、地域の飲食店からの協賛金や出店料とかですね。直近の19年はおよそ1800万円の予算で開催したんですけど、70~80%は企業などからの協賛金と出店料でまかないました。残りは公式グッズやドリンクの販売などです」
「今年はコロナ禍で、場所を変えて3年ぶりの開催ということもあり、協賛金は19年の40%くらいを見込んでいて。文化庁の補助金を活用します」
-当初は協賛金を集めるのも苦労したのでは。
「伊丹には『伊丹まちなかバル』や『伊丹郷町屋台村』などのイベントが以前からあって、中心市街地を盛り上げようという動きがあったんです。だから、グリーンジャム立ち上げの時も『おもしろいことやるらしいな。頑張りや』みたいに言ってもらえて。地域にそういう土壌があったのは大きかったです」
【リーダーの熱量】
-ローカルフェス成功の鍵って何でしょうか。
「一つは、旗を振っている人間、つまり実行委員長がどこまで熱量を持っているか。めちゃくちゃ地道な作業が多いので、本当に頑張れるのかどうか。もう一つは『一緒にやろうよ』『困ってるんやったら助けよう』と連携してくれる文化がその地域にあるかどうかだと思います」
-来年以降について。
「もちろん続けることは前提ですが、池田で続けるのか伊丹に戻るのか。これは今年やってみて、僕自身や関わってくださる方々がどう思うのか。いろんな判断要素があるので、今は何とも言えないですね」
-あらためて3年ぶり、そして新天地での開催に向けてメッセージを。
「当日、さまざまな市民表現者たちがそれぞれの本番を迎えます。きっと全力で楽しませてくれると思うので、ご来場いただく皆さんもGREENJAMの2日間で感じたことをイベント中、イベント後も含め、それぞれの形で表現していただければ幸いです。『市民表現のプラットホーム GREENJAM』に、ぜひご参加ください」
(聞き手・藤森恵一郎)
【おおはら・さとる】1984年福島県生まれ、伊丹市育ち。バンド活動を経て音楽スクール主宰。2014年に伊丹市のクリエイター仲間と音楽フェス「GREENJAM」を立ち上げる。17年にイベント企画・制作などを手掛ける一般社団法人GREENJAMを設立。空き物件を活用した創業支援などにも取り組む。
■企画協力【Festival Life(フェスティバルライフ)】津田昌太朗さんが編集長を務める、日本最大級の音楽フェス情報サイト。全国で開催される400以上のフェスリストのほか、国内外のフェスに関するニュース、インタビュー、コラム、来場者スナップ、リポートなどを配信する。
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