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竹中郁(左)と小磯良平(1954年ごろ、神戸市立小磯記念美術館蔵)
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竹中郁(左)と小磯良平(1954年ごろ、神戸市立小磯記念美術館蔵)
竹中郁「桃」(制作年不詳、個人蔵)
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竹中郁「桃」(制作年不詳、個人蔵)
小磯良平が竹中郁をモデルに描いた「彼の休息」=神戸市立小磯記念美術館
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小磯良平が竹中郁をモデルに描いた「彼の休息」=神戸市立小磯記念美術館

 竹中郁(1904~82年)といえば、海港都市が生んだ「神戸の詩人さん」。その生涯の友は、昭和洋画壇の巨匠・小磯良平(1903~88年)だ。共に学び、旅し、感性を育んだ2人の交友関係を軸にした初めての展覧会が、神戸・六甲アイランドの市立小磯記念美術館で開かれている。(田中真治)

 2人は旧制神戸二中(現兵庫高)の同級生。竹中が後に小磯の「弟子第1号」を自称するのは、小磯の勧めで水彩の画材を買い、野外写生の手ほどきを受けたからだ。

 一方、小磯の東京美術学校(現東京芸大)進学には「竹中が一役買っている」と多田羅珠希学芸員。社交的な竹中は、角野判治郎や今井朝路ら地元の画家に親しみ、小磯に紹介する。彼らのアトリエで油彩に触れたことは、画家志望の若者に大きな励みとなった。

 そして小磯は、美術学校を首席で卒業。ラガーシャツの青年を描いた卒業制作「彼の休息」のモデルは、他ならぬ竹中だ。関西学院に進んだ竹中は、須磨の自宅を「海港詩人倶楽部(くらぶ)」と名付け、同人誌「羅針」や詩集「黄蜂(くまばち)と花粉」「枝の祝日」を刊行。小磯は表紙絵やカットを寄せた。

 2人の作品からは親密さが伝わってくるようだが、せっかちな竹中にマイペースな小磯と、性格が正反対というのも面白い。

 2人は28年から2年間、ヨーロッパに遊学するが、美術館から動こうとしない小磯に、竹中がしびれを切らして、殴り合いになったという。そんな一面を描き留めた先輩画家・古家新のスケッチ帳や、貴重な旅の記録映像を見られるのも、本展ならではの楽しみだ。

 もちろん外遊は、創作に与えた影響も大きい。パリ滞在中、小磯は「肩掛けの女」でサロン・ドートンヌに入選。竹中は、マン・レイのシュールレアリスム映画に感激し、シナリオ形式の「シネポエム」を発見した。

 〈1 寄せてくる波と泡とその美しい反射と。/2 帽子の海。/3 Kick off! 開始だ。靴の裏には鋲がある。〉-と始まる「ラグビイ」は、その一編。会場では、下敷きとなったオネゲルの同名曲に合わせてスライド上映しており、竹中の詩心がよく分かる。

 また、竹中の油彩や水彩など約40点を集めているのも見どころで、自由な色彩感の静物画や抽象的な線描は「軽やかで詩に通じる」と多田羅学芸員。2人の表現は異なるが、「裏表のない人となりが詩にも絵にも現れていて、終生お互いを信頼していた」と評する。

 竹中の伝記作者で詩人の足立巻一が指摘した、根底で通じる「清潔感」。会場では、その魅力をじっくり味わえる。

     ◇

 開館30年特別展「竹中郁と小磯良平-詩人と画家の回想録」は12月18日まで(月曜休館)。一般千円、大学生500円。同館TEL078・857・5880

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