経済小説と戦争文学。城山三郎の作品世界を構成する2本の軸は、組織と個人、時代と人間というテーマを射程に入れながら、とりわけ本作品で絶妙に交差する。作家43歳。充実期の取材は精緻をきわめた。「わたしは、あの戦争中の名機が、どんな企業で、どういうシステムで、またどんな人たちの手でつくり出されたかに興味を持った。たまたま二式大艇の血をひくPS飛行艇が、戦後日本の傑作機として生まれ出る時期でもあった。こうしたことから、わたしは、川西航空機-新明和工業という企業を徹底的に調べてみるようになった」(「創作ノート」)