急斜面の岩場が山頂へ続く紅山=小野市来住町
急斜面の岩場が山頂へ続く紅山=小野市来住町

 「日本一低いアルプス」といわれる小野アルプス。白雲谷温泉ゆぴかと福甸(ふくでん)峠間の縦走など多彩なコースがあり、体力に応じ、途中下山もできる。日本旅行神戸支店が企画した初心者向けツアーに同行した。

 待ち合わせたのはJR小野町駅で地元住民が運営するコミュニティレストラン「ぷらっときすみの」。午前10時過ぎに着くと、参加者が早めの昼食を、と地元で栽培・収穫された手打ちそばを味わっていた。

 案内役は「ふるさと兵庫100山」(兵庫県山岳連盟編)の筆者の1人で紅山の選定に関わった同連盟の小堀嘉幸さん(72)=同県小野市河合中町=と、同副会長で神戸登山研修所長の黒田信男さん(77)。参加者は主に神戸・阪神地域の男女8人で、日本旅行のスタッフ2人も案内役を務めた。

 アスファルトの道を歩いて岩倉登山口へ。「ここが最後のトイレです」と聞き、小用を足す。

 いよいよ山道へ。落ち葉が積もる登山道を踏みしめて歩く。柵の手前に道標が立つ。この道が昔、加古川の臨海部と北播磨を結ぶ主要な街道だったことを示す。近くには市内最大の横穴式石室、岩倉2号墳があり、大きな天井石を積んだ石室内に入って先人の技術に触れることができる。

 最初に目指したのが、急傾斜の一枚岩が頂上へと続く紅山(紅粉(べにこ)岩山)だ。先頭の小堀さんが「赤く見える部分は地衣類です」と説明。「途中でロープを持っても結構です」と言った。前日夕に飼い犬を連れて登り、岩場にロープを結わえ付けていた。「助かるわ」。最高齢の84歳の女性らが所々にこぶを結んだロープを手に急斜面を登り切った。

 次は「小野富士」と呼ばれる市内最高峰の惣山(198・9メートル)へ。小野市は市域南端に近い惣山が最高地点。加古川市に自宅がある私には北へ行くほど、山が高くなるという感覚がある。最高地点が南端で、北側は段丘という小野の地形は不思議な気がする。

 小堀さんは「加古川の流れを阻むのが小野アルプスだ」と解説した。県内最長96キロの加古川は西脇、加東、小野市を南へ流れるが、小野アルプス手前で東へ向きを変えて大きく弧を描く。その後、南西に向かい、加古川市南部で播磨灘に注ぐ。自然地形が織り成すせめぎ合いを実感する。

 次は総山へ。惣山と総山。紛らわしい名称だ。「地元の人は最高峰に敬意を表して惣山を『そうやま』、総山を素っ気なく『そやま』と区別して呼ぶ」。小堀さんが教えてくれた。

 車道の通るアザメ峠を経て安場山、愛宕山、前山、高山を上り下りし、午後3時過ぎにゆぴかへ着いた。

 神戸市灘区から来た松井武之(たけし)さん(70)と幸恵(ゆきえ)さん(64)夫妻は「六甲山はよく登るが、ここは初めて。低い山並みなのに体力がいると実感した」と笑顔を見せ、温泉に向かった。

 「登山口に温泉があり、観光資源として魅力的だ」と日本旅行のスタッフ。古里の低い山並みは今後、大勢の人を呼ぶ可能性を秘めている。(坂本 勝)

▽ちょっと一服

【ぷらっときすみの】JR加古川線小野町駅構内のそば処で、地域住民が運営する小野市のコミュニティレストランの草分け。地元で栽培、収穫するそばを特産にと、2004年12月、加古川線の電化完成に合わせて開店した。湯治場の趣を残し、駅から徒歩約10分の「鍬溪(くわたに)温泉きすみのの郷」に2号店がある。

 そば打ちを体験した地元児童に「おいしいそばをもっと食べたい」と喜ばれたことが開店のきっかけ。手打ちのそばは県のひょうご安心ブランドの認証を受け、滑らかな喉越しで風味や歯応えが特長。ゴボウなど具にこだわったおふくろの味、巻きずしも人気。そばは午前10時~午後2時(売り切れ次第終了)。水曜定休。同店TEL0794・62・5116