神戸

  • 印刷
自主練習に励む田中崇由希さん。コロナ収束を信じ、美声を磨く=兵庫県立芦屋高校
拡大
自主練習に励む田中崇由希さん。コロナ収束を信じ、美声を磨く=兵庫県立芦屋高校
田中禎一さん(遺族提供)
拡大
田中禎一さん(遺族提供)

 兵庫県の淡路島出身で阪神・淡路大震災により祖父禎一さん=当時(78)=を亡くした県立芦屋高校の音楽教師、田中崇由希(たかゆき)さん(43)=尼崎市。悲しみを乗り越えて声楽の道に進み、地域でオペラコンサートを開くとともに、東日本大震災の復興支援コンサートに参加するなど同じ被災者として心を寄せてきた。新型コロナウイルス禍で公演中止が相次ぐ中だが、いつか希望の歌声を届けたいと練習に励む。(佐藤健介)

 旧北淡町(淡路市)富島(としま)地区の鮮魚店に生まれ育った。禎一さんは店の3代目。魚をさばく腕前は評判で、地域住民からも慕われていた。「身を寄せ合うように暮らす人たちに見守られている安心感があった。祖父が地域で根を張っていたからこそ」と田中さん。

 オペラ歌手を志したきっかけは中学の音楽教師との出会い。大きく伸びやかな声を見込まれ、声楽家に弟子入りすることに。オペラのとりこになった。漁師町でオペラに打ち込む人は珍しかったが、禎一さんは「命ある限り、自分の好きなことをやったらええ」と背中を押してくれた。

 「祖父は太平洋戦争を生き延びた。生きてさえいればいいと身をもってわかっていたと思う。だから『後を継げ』などと道を決めることはなかった」

 26年前の震災で店は全壊。禎一さんががれきに埋もれた。田中さんは病院へ向かう車中で心臓マッサージを施したが実らなかった。

 「悲しみに打ちひしがれたからこそ、歌で希望を届けられる存在になる」。田中さんは禎一さんに誓った。

 大阪音楽大でバリトンの技術を磨き、声楽家団体「関西二期会」に。北淡震災記念公園(同市)での追悼式典にも遺族代表で参列し、「ふるさと」を独唱した。「震災で亡くなった人たちや遺族、僕の歌を聞いたことのない天国の祖父へ届くように」と心を込めた。

 2003年に教師となってからも、コンサートで「しあわせ運べるように」を披露したり、教え子や音楽家仲間らと東北の被災地支援公演を開いたりしてきた。

 「オペラは喜怒哀楽の追体験。思いやりや明るさ、それらの裏にある怒りや悲しみに触れ、相手の立場や胸中を察する姿勢が育まれる。自分にとっては被災の悲しみを癒やすとともに、被災者に深く共感する媒介」

 コロナ禍でコンサートは軒並み中止となり、昨年の1学期は授業で歌を教える機会がほぼ失われた。12月下旬には飛まつが広がらないようハミングコンサートを企画したが、感染急拡大で実現できず、試練は続く。

 それでもコロナ収束を見据え、業務時間外に学校の音楽室や自宅で発声練習を続ける。「苦しむ人にどう寄り添えるかを考え、行動したい。それが、夢に向かわせてくれた祖父への恩返しだから」。いつか、人が集まり、音楽の楽しさを分かち合う場を取り戻せる日を信じて前を向く。

【特集ページ】阪神・淡路大震災

神戸淡路阪神
神戸の最新
もっと見る

天気(3月7日)

  • 14℃
  • ---℃
  • 20%

  • 9℃
  • ---℃
  • 10%

  • 15℃
  • ---℃
  • 40%

  • 13℃
  • ---℃
  • 30%

お知らせ