阪神・淡路大震災をきっかけに消防団に入った兵庫消防団本団分団長の高橋晃治さん(56)が17日、神戸市兵庫区の湊川中学校で講演した。家の下敷きになった友人の家族を助け出せなかった無念さなど、人前で話すことをためらってきた体験を声を詰まらせながら語り、「震災では考えている以上のことが起きる。自分の安全を確保しながら、一人でも多くの人の救助を」と呼び掛けた。(初鹿野俊)
高橋さんは兵庫区内の実家で被災したが、家族は無事だった。近くの幼なじみ宅では祖父母が生き埋めになっており、救助に加わると、倒壊した家屋に潜り込んだ。数時間がかりで探し当てたが、触れた手はもう冷たかった。住民だけの力ではがれきを撤去することもできず、断念せざるを得なかった。
避難した湊川中では、教室の窓際にぽつんと座る老人を見かけた。拳を握りしめ、目からこぼれる涙はオレンジ色に染まっていた。窓の外では街が炎を上げて燃えており、老人の自宅も全焼したと後に知った。
「何かできることを」。震災の翌月から消防団の夜警を手伝い、3月に正式に入団。だが、命を救えなかったことが、ずっと重荷になっていた。震災の追悼の場に出掛けても、遠くから見ているだけで、被災体験から目を背けるようになっていた。
転機は知り合いの消防署員の一言だった。「僕らの仕事はうまくいかないこともあるが、悔いてばかりはいられない」
一昨年の1月、被災地を巡るメモリアルウォークに初めて妻と参加した。人と防災未来センター(同市中央区)が語り部を募集していると知って手を挙げたが、自身のつらい経験にはなかなか触れられずにいた。
そんなところに舞い込んだ講演の依頼。被災者の受け入れ先となり、今は長男が通う学校という縁から、「最後のチャンスかもしれない」と引き受けることを決めた。
当日はやはり、胸がつかえ、思うように言葉が出てこなくなったが、26年前の出来事や防災の取り組みを懸命に伝えた。湊川中では生徒の発案で、プールの水をリレーしてトイレに使ったこと。東日本大震災で、中学生が小学生を高台に避難させたこと-。
「皆さんが災害の時に動くことが大事だと知ってほしい」
それが、あの日を知る高橋さんの願いだ。
