神戸市を拠点とするロックバンド「ワタナベフラワー」ボーカルのクマガイタツロウさん(41)が、市内全9区に1カ月ずつ住む企画「神戸に住むで神戸へおいで」に挑戦している。バンド結成20周年を記念し、ファンらへの感謝を示すために企画した。「神戸を一番知っているバンド」という意味での「神戸ナンバーワン」になるため、今年1月から実際に各区で暮らし、住民と交流している。(大橋凜太郎)
メンバー3人の同バンドは、「誰にでも分かりやすくて、楽しい音楽」を目指し2001年に結成。神戸市を中心に活動し、王子動物園の「応援隊長」に就任したり、ヴィッセル神戸の応援大使を務めたりするなど、地元への貢献活動も続けている。
9カ月で全9区を“制覇”する企画は、クマガイさんが「応援してくれる人への恩返しを」と昨年末に発案。今年1月、垂水区からスタートした。住む場所も一から探し、1人で生活している。次に行く区は行き当たりばったりで決めている。
最初に垂水区を選んだのも、たまたま家が見つかったからという。史跡や商店などを巡ると、出会う人々が「自然体で優しかった。挑戦を始めた自分の背中を押してくれた」(クマガイさん)。2月に移った兵庫区では、見知らぬ人にしばしば話しかけられた。当初は「みんな友達だと思っているのか」と戸惑った近い距離感も、次第に心地良くなっていった。「愛情深くて、思い出すだけでも泣けてくる」と振り返る。
続いて3月は須磨区へ。中旬には須磨寺(同区須磨寺町4)寺務長の小池陽人(ようにん)さん(34)に案内してもらい、近くの商店街や境内を散策。インターネットでライブ配信しながら、商店主らと交流した。
寺の境内では、首が回る置物やからくり時計といった仕掛けに目を丸くした。小池さんから「体験型の寺。老若男女に親しまれる場所を目指している」と明かされ、「われわれが大切にしている『誰にでも分かりやすく、楽しく』と通じるところがある」と共感を覚えた。
須磨での生活を終え、4月から長田区に移ったクマガイさん。「冷たいと思った地域はない」と充実感をにじませる。特に、住民に「ええとこ紹介して」と尋ねると、場所や物ではなく、決まって人物のもとにいざなわれるのが印象的だという。
これまでの体験で、すでに「曲の種がいっぱいできている」と喜ぶ。「行った先々で出会った人の言葉や出来事は、飲み込んで消化する中で、これから書く曲に絶対入ってくる」と創作意欲を膨らませている。
