神戸市灘区、阪急王子公園駅から１０分ほど歩いた閑静な住宅街に、ひっそりとたたずむ猫カフェがある。「猫の屋おでん」（同区天城通３）。おでん…？　不思議な屋号が気になる。９月下旬に取材すると、そこには猫に対する「アツアツ」の愛があった。（谷口夏乃）

■３重の扉

　店先に看板はない。目印は玄関先に立つ、木彫りの猫。玄関からカフェのある２階へ続く階段までは、扉が３重になっている。「脱走防止のためです」と、スタッフの太期（だいご）由美子さん（４１）が教えてくれた。

　カフェは由美子さんを中心に、母の量子さん（６６）、妹の麻美子さん（３９）の３人で経営している。

　一般的な猫カフェはテナントを借り、営業時間のみ滞在するが、「猫を置いて自分だけ家に帰るのが耐えられない」と、築３５年の量子さんが住む自宅を改装して２０１９年４月にオープンした。

■あえて「白」

　２階へ上がると、猫たちがそれぞれのケージ内で食事をしている。全部で１７匹。食べ残しがないかなどで体調をチェックできるよう、個室に分けている。

　床は真っ白なフローリング。「あえて汚れが目立つようにしている」と、由美子さん。掃除機にスチームクリーナー、さらにカーペットクリーナーまでかけ、「コロナ禍の中でも安心してもらえる清潔な環境」を保つという。掃除のほか「スタッフ猫」のブラッシングなど、毎日の開店準備には２時間をかける。

■ちくわにつみれ

　店が開いた午前１１時、早速やって来たのは、常連の会社員女性（２３）＝神戸市兵庫区。「家で飼えないので」と、ここでのふれあいを楽しむ。客は平均１～２時間で次々入れ替わる。毎月通う介護福祉士の女性（５６）＝同市灘区＝は「ここの猫はすごくリラックスしてて、いろんな表情に癒やされる」。

　「ちくわ」、「つみれ」。女性の視線の先にはくつろいで寝る猫。店名にちなんで、いずれもおでんの具の名前が付いている。

　マンチカンの「やくみ」は、無資格者が繁殖させたことによる多頭飼育崩壊の現場から、自身の子猫２匹とともに助けられた。ほかにも保護されたり、ペットショップで売れ残ったりした猫もいる。

■増えるＳＯＳ

　午後３時、店の電話が鳴った。「ＴＮＲ活動」を個人でする女性からという。

　ＴＮＲとは、捕獲（トラップ）、不妊・去勢手術を施し（ニューター）、まちに放す（リターン）サイクルのこと。聞けば、手術しようと保護した猫が、５匹の子猫を産んでしまい、うち２匹を引き取ってほしいというのだ。

　由美子さんの表情が曇る。外猫はウイルスを持っている恐れもあり、検査や隔離が必須。「電話一本で預かるのは不可能」。それでも事情を細かく聞き、引き取れる可能性を探った。

　店にはこんなふうに１日２、３件、飼育や保護の相談がくる。長い時は深夜まで対応する。「正直、時間と労力はかなりかかる。でも、一人一人の話を聞いてその人にあった情報を伝えないと、困るのは猫だから」

■店名に込めた思い

　１階には、猫カフェでは珍しいギャラリーも。猫を題材に創作するアーティストの個展や、保護猫の譲渡会が定期的に催される。また、カフェ併設のショップにはのべ４００種類もの「猫グッズ」が並ぶ。

　量子さんは「まずはどんな切り口でもいいから『猫』に触れる。その中で今ある保護猫の問題や適性飼育について知り、考え、煮込まれて『おでん』がおいしくなる。その良さが周りに伝わり、さらに煮込まれ、猫と暮らす社会が良くなれば」と話す。店名に込められた思いを知った。

　午前１１時～午後８時（入店は午後７時まで）。火、水曜定休（祝日は営業）。３０分７７０円から。ＴＥＬ０７８・８０５・２２１５