蜃気楼(しんきろう)の一種で、水平線に沈む太陽がゆがんで見える「だるま夕日」に魅せられた男性がいる。写真愛好家の向井章二さん(78)=神戸市灘区。自然現象を相手に、どうしたら撮影確率を上げられるか-。今シーズン、ある仮説の検証に取り組んでいる。(鈴木雅之)
「大海原に沈む真っ赤な太陽が、とにかくきれいでしてね」。向井さんがそう振り返るのは、2007年2月、写真仲間と室戸岬(高知県)で見ただるま夕日のこと。以来、地元神戸で撮影に挑み、観望シーズンとなる10月から翌年3月ごろになると、毎日のように天気予報をにらみ、狙い続けてきた。
だるま夕日観望で悩まされるのは雲。撮影者の上空に雲がなくても、沈む直前に雲に隠れてしまって見えない、ということが多い。
そこで向井さんが計算によってはじき出したのが、水平線に沈む太陽の眺望に影響する、距離別の雲の高さ。それによると、予報を見るポイントは「100キロ先の下層雲」「200キロ先の中層雲」「300キロ先の高層雲」の量。例えば、冬至に神戸市垂水区の舞子公園から望む場合は、香川県高松市▽愛媛県松山市▽同県伊方町-がおよそその距離に当たる。気象予報サイト「Windy」を使えば、無料版でもそうした高さ別の雲量予報が見られるという。
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向井さん自身が、重い撮影機材を担いで海辺に通っては、空模様に振り回されてきた一人だ。「見える、見えないをなるべく科学的に検証しないといけないとずっと思っていたんです」
沈む方角や、観望に影響する雲の高さの研究に昨年から着手。今年は、雲の高さの予報などを基に撮影に臨み、どれぐらいの確度で見ることができるかを検証している。10月1日から12月14日までで「今日は見えそう」と予測した日に実際、だるまになった確率は「22回中12回」。ただ、だるまになるかどうかは気温にも影響される。「雲に隠れることなく水平線に太陽が沈んだ回数」では19回に上り、向井さんの予測の確度の高さを裏付ける結果になっている。
「瀬戸内海は船の往来も多いので、だるま夕日と思いがけず共演するシーンが撮れるのが神戸の面白さ。遠方からわざわざ足を運ぶ人に、私の予測が貢献できたらと思っているんです」
向井さんは今年11月に、日本蜃気楼協議会でも講演。同協議会のホームページで、向井さんの詳細な報告を読むことができる。
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