そのキャラがいつ生まれたのか、なぜ作られたのか、誰もよく分からない。掲示や資料の隅に小さく載っているけれど、社内でも数十年間忘れ去られたまま。そんな不遇な人(?)生を歩んできた、ポートライナーなどを運行する神戸新交通(神戸市中央区)のキャラクターがLINEスタンプとしてデビューし、じわじわと人気を集めている。(広畑千春)
名前は「ライナーくん」。グレーの体にポートライナーの緑の差し色。胸には信号を模したようなボタン、両耳にはアンテナ…と、アナログ感と懐かしさが漂うロボット型のキャラクターだ。数十年前に作られたようだが、入社30年という営業推進課課長代理の岸本敏彦さん(48)は「全く記憶になくて、気付いたらいた、というか…」と口ごもる。
そんなライナーくんが一躍脚光を浴びるきっかけは、新型コロナウイルス禍だった。緊急事態宣言下でポートアイランド、六甲アイランドで開かれる学会やイベントが中止に。企業もリモートワークが進み、2020年度の1日当たり乗客数は、ポートライナーが前年度比37・5%減、六甲ライナーは21%減った。これに伴い、20年度決算は15億円の赤字に転落(19年度は4億9千万円の黒字)した。
沿線にはITや医療など最先端企業が多く、コロナが収束しても需要が元に戻るのは難しいと判断。鉄道収入以外の増収・PR策を探していた時「そういえばうちにもキャラがいるらしい」と白羽の矢が立った。資料をたどり「ライナーくん」という名前も判明した。
実現に向け社内で絵心のある若手を探す中、入社2年目の長次ももさん(24)が手を挙げた。もともと絵が好きで「LINEスタンプに携わりたかった」という長次さん。日常生活だけでなく、ややフランクなビジネス場面でも使いやすい40種類の絵柄を考え、昨年10月にリリースした。ダウンロード数は4カ月で約300。駅や車内の掲示にも積極的に露出を始めている。
コロナ禍真っただ中で入社し、直後からテレワークが続いたという長次さん。スタンプは「社員以外に送ると、たいてい『これ何?』という反応」というが、「人気が出たら2弾、3弾も」と野望を抱いている。