観光客や買い物客が行き来する神戸元町商店街。その一角にたたずむ雑居ビルの4階に今年1月、私設の美術館がひっそりとオープンした。展示品は、74歳の一人の医師が、30年かけてこつこつ集めてきた古美術の数々。といっても、悠々自適なコレクターが趣味の延長で開設した、というわけではない。「収集家としての自分なりのプライドであり、けじめであり、『終活』の一環なんです」と話す、その真意とは-。(児玉芙友)

神戸市中央区元町通2丁目の「工芸絵画ミュージアム想(そう)」。雑居ビルの一角ということもあり、約100平方メートルのワンフロアと、広さだけを見ればこぢんまりとした印象だ。
一方で、展示品は幅広い。ガラスケースには、金工細工や象嵌(ぞうがん)、刀装具、長さ10メートルの絵巻物がずらりと並び、日本画の掛け軸や版画が壁を埋める。日本の古美術が多いが、朝鮮半島のガラス食器やドイツのマイセン陶器、アフリカの木製仮面もある。
その全てが、神戸市須磨区在住の医師、片木健一さんのコレクションだ。美術館の開設者であり、館長兼学芸員であり、実質的にワンオペで運営の全てを担当している。

そんな片木さんが、展示品の一つを指さした。
明治期に現在の愛知県で作られたという大きな黒いつぼ。表面には、軽やかに羽を広げるチョウが七宝焼の技法で描かれている。
図柄をよく見ると、0・1ミリに満たない細い細い銀線が、迷路のように幾重にも縁取られている。職人が神経をすり減らして刻み込み、慎重に釉薬(ゆうやく)を付けて焼き上げた途方もない工程が浮かぶ。
「私のコレクションは、職人の技が光るものばかりなんです。修行を重ねて伝統技術を習得し、その人にしかできない型を作り上げる。作品から伝わってくるその生きざまが、本当にかっこいい」
自分自身の写真を紹介されるのは「主役は私ではなく美術品」「そもそも恥ずかしい」との理由に拒む控えめな片木さんだが、展示品の解説となると一転して饒舌(じょうぜつ)になる。一つ一つ、制作された文化的な背景や職人の技を熱っぽく語り、魅力を存分に伝えてくれる。
























