taniho/AdobeStock

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 壮絶な暴力、苛烈なモラルハラスメント…。さまざまな夫婦の実話を紹介するシリーズ離婚「暴力夫は練炭自殺を図った」(全8回中の2回目)。兵庫県内の小さなまちに住む洋子=当時(32)、仮名=は、2007年、職場の同僚だった秀男=同(30)、仮名=からの結婚の申し出を承諾。しかし、結婚式に際しての秀男の行動に疑念を感じる。そして金銭感覚の違いから、激しい暴力が始まった。(斉藤正志)

 ■振り込んだはずの挙式費用が足りない

 結婚式は長崎県のハウステンボスでのリゾートウエディングを計画した。

 洋子にとっては、小学2年の長男を連れた再婚だった。

 再現されたヨーロッパの街並み、鮮やかな季節の花々-。

 高揚した気持ちは、準備の段階で折られた。

 挙式費用は洋子が立て替えることになり、秀男に現金を渡していたが、振り込まれていないとの連絡がきた。

 秀男にただすと、「パソコンの周辺機材を買ってしまった」と言う。

 秀男に貯蓄がないのは聞いていたが、お金にルーズなことに気づいた。

 ■「たった20万円で俺が死んでもいいのか」

 言い争いになり、洋子は「もう結婚はやめましょう」と口にした。

 すると秀男は「自殺する」と言い出し、「たった20万円で俺が死んでもいいのか」と声を荒らげた。

 当時、洋子は父をがんで亡くしたばかりで、母がふさぎ込む日々を送っていた。

 洋子の結婚が失敗すれば、母をまた悩ませてしまう。そう考え、最終的には許してしまった。

 結婚式前日に現地入りすると、振り込んだ額が足らないとスタッフに告げられた。

 秀男がブーケを加工して記念品にするなどのオプションを、勝手に追加していた。

 金銭感覚の違いに、挙式のキャンセルも頭をよぎったが、互いの家族もいる中、踏み切れなかった。

 洋子はATMに走り、追加費用を払った。

 しかし秀男との価値観の相違は、想像以上だった。

 ■クレジットカードでキャッシング

 洋子は結婚生活に際し、秀男と話し合って「ルールブック」を作っていた。

 互いの収入と、生活費、将来のための貯蓄額などを計算し、余ったお金を自由に使える小遣いにすることを決めていた。

 そのルールは、早々に破られた。

 秀男は、洋子に黙ってクレジットカードのキャッシング機能を使い、現金を引き出していた。

 洋子はカードの明細を見て、そのことを把握した。

 秀男にただすと、「お金をくださいと言えなかった」と言い訳された。

 「次からは私に言ってくださいね」

 1万円や2万円程度だったので、最初は許してしまった。

 それがたび重なると、洋子の不信感は大きくなった。

 ■「何でそんなに言われんとあかんのや!」

 結婚2カ月後だった。

 洋子は「何でまたお金を借りたの」と問い詰めた。

 すると秀男は豹変(ひょうへん)した。

 「たったそれだけのことで、何でそんなに言われんとあかんのや!」

 激高し、大声を上げた。

 洋子は首を絞められ、髪の毛を持って引きずり回された。

 騒ぎに気づいて、長男が起きてきた。

 母が暴力を受けている姿を目の当たりにし、あまりのショックに気を失った。

 それから暴力は常態化していく。(敬称略)

続き ③夫の暴力に震える日々 義父の言葉に絶望した 義母は薬物におぼれる

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 シリーズ「離婚」は、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」の一環で、LINE(ライン)を通じたアンケートの回答者に取材しました。