taniho/AdobeStock

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 ささいなことで暴力を振るう夫は、自身の仕事上でのストレスを抱え、暴れ方がひどくなっていく。シリーズ離婚「暴力夫は練炭自殺を図った」(全8回中の4回目)。兵庫県内に住む洋子=当時(33)、仮名=が夫の暴力に震える日々は、妊娠しても変わらなかった。(斉藤正志)

 ■切迫早産の危険性、2カ月入院

 先夫との間に小学生の長男がいた洋子は、2008年に秀男=同(31)、仮名=との間に子どもを身ごもった。

 妊娠しても、秀男の暴力は変わらなかった。

 洋子は産婦人科で切迫早産の危険性を指摘され、2カ月入院した。

 臨月になって退院した際、秀男は「無理したらあかんから、ご飯はお母さんに作ってもらったらいい」と言ってくれた。

 洋子は、妊娠して秀男が変わってくれたと思って、うれしくなった。

 それは、すぐに裏切られる。

 ■臨月のおなかに馬乗り

 秀男の言葉に従って、隣の家に住む義父母宅でご飯を食べていた時だった。

 義母に「もう一膳食べて」と言われ、断れなくてご飯をおかわりした。

 すると秀男は「おまえ太りすぎなのに、まだ食うんか」と怒りだした。

 義母が取り成してその場は収まったが、洋子が自宅に帰ってから、秀男は再び激高した。

 「おまえは自覚が足りない」と言い始めると、どんどん声が大きくなった。

 「おまえが入院していた間、しんどかった。俺は被害者や」

 怒声を発した。

 そして洋子の臨月のおなかに馬乗りになり、首を絞め続けた。

 洋子が気を失いかけた時、長男が「お母さんと弟はぼくが守る!」と言いながら秀男に飛びかかった。

 秀男はわれに返り、泣いて謝った。

 洋子は、それをぼうぜんと聞いた。

 ■八つ当たり「おまえは人間のくずだ」

 10年に3人目の子どもを身ごもり、出産予定日の2カ月前のことだった。

 秀男が勤務先で異動し、所属部署が変わった。

 このことが洋子をさらに苦しめるきっかけになる。

 新しい配属先の上司は、毎週末のように部下を飲みに誘った。

 秀男は宴席が苦手で、当初は何かしら理由を付けて行かなかったが、断り切れなくなった。

 事実上の強制的な飲み会に、秀男はストレスを積もらせ、頻繁に暴れるようになった。

 帰ってくると、かばんを投げ付けるように置き、洋子に八つ当たりした。

 脈絡なく、長男に「おまえは人間のくずだ!」と暴言を吐いた。

 洋子が「何でそんなこと言うの」とかばうと、暴力を振るわれた。

 ■出産日に夫は倒れた

 11年の初夏、洋子は入院し、長女を出産した。

 ベッドで休んでいた時、秀男が訪れた。

 秀男は、いつもと様子が違っていた。

 洋子が入院して自宅におらず、秀男は職場でのストレスの吐き出し先がなかったため、精神的に追い詰められていた。

 ベッド脇のパイプいすに座った秀男は、そのまま倒れ込んでしまった。

 洋子は仕方なく、秀男をベッドに寝かせ、自身はパイプいすに座った。

 出産から数時間しかたっていなかった。

 見回りに来た看護師は、その光景に声が出ないほど驚いた。

 ■夫の病気療養、激しさを増す暴力

 看護師は秀男に精神科の受診を勧めた。

 洋子も同意したが、秀男は嫌がった。

 洋子が「診断されれば仕事を休める」と言うと、態度を変えて受診。うつ病、パニック障害と診断された。

 入院を勧められたが、秀男は自宅療養を選んだ。

 秀男は休職し、自宅にこもった。

 それは育児休業中の洋子と、四六時中、同じ家に居続けることを意味した。

 秀男に家族以外との交流がなくなり、暴力は激しさを増していく。(敬称略)

続き ⑤「やらせろ」と迫る夫 抵抗すると服をずたずたに 出産後に暴力は激しさを増した

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 シリーズ「離婚」は、神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」の一環で、LINE(ライン)を通じたアンケートの回答者に取材しました。