日本デジタル終活協会の代表理事を務める弁護士、公認会計士の伊勢田篤史さん

日本デジタル終活協会の代表理事を務める弁護士、公認会計士の伊勢田篤史さん

 亡くなった人の家族が、スマートフォン(スマホ)やパソコンから資産管理や契約サービスの情報といった「デジタル遺品」を取り出せず、相続などに支障を来すケースが相次いでいます。生前対策のセミナーを開く「日本デジタル終活協会」の代表理事で弁護士、公認会計士の伊勢田篤史さん(41)に、生前にやっておくべきことと、見られたくない情報の隠し方を聞きました。(聞き手・山岸洋介)

■写真やネット口座、SNSアカウントも

 -デジタル遺品とは。

 「端的に言うと、デジタル機器を操作することによって生じる『もの』です。具体的には故人のデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなどが挙げられます」

 「例えばスマホに保存された写真や動画、連絡先のデータ。ネット証券やネット銀行の口座、暗号資産、交流サイト(SNS)のアカウント、定額でサービスを受けるサブスクリプション(サブスク)の契約もそうですね」

 -高齢者のネット利用拡大に伴い、デジタル遺品を巡るトラブルも増えているようです。

 「国民生活センターは昨年11月に代表的な事例を公表し、残された家族が困らないよう『デジタル終活』を呼びかけました。私が2016年に協会を立ち上げたときには問題がほとんど認知されていませんでしたが、近年関心が高まっているのは、困っている人が増えてきた裏返しかもしれません」

■資産のありか把握できない

 -最も多いのはどんなトラブルでしょう。

 「根本的な問題は、故人のスマホやパソコンに設定されたパスコードやパスワードが分からないため、家族が機器内にアクセスできないことです。中に入れなければ、そもそもどんなデジタル遺品があるのか把握すること自体が困難になります。ここが大きな分かれ道です」

 -ロックが解除できないと、どうなりますか。

 「相続手続きに支障が出る恐れがあります。昨年1月に新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、ネット証券の口座開設も増えました。お金の管理はネットバンキングで行い、通帳を持たない人もいます。故人がどの金融機関を使っていたのか分からなければ、そもそも相続財産がいくらあるのか把握することが困難になります」

 「サブスクを解約して月々の支払いを止めたいのに、契約先が分からない、アカウントのIDやパスワードが分からない、という事態に陥ることも考えられます」

 「葬儀で困る人もいます。遺影にぴったりの写真をスマホから取り出せない、訃報を届けるべき友人知人の連絡先が分からない、というケースもありました」

デジタル遺品が詰まったスマホのロック画面(左)。右は印刷して遺族にパスワードを書き残せる「スマホのスペアキー」のテンプレート(古田雄介さん作成)

■「やみくも入力」はNG

 -家族が亡くなると、動転してやみくもにスマホのパスコードを入力してしまいそうです。

 「iPhone(アイフォーン)などの機種は、誤ったパスコードを一定回数入力すると、データが全て消えてしまいます。なので『開くまで何度でもチャレンジ』という訳にはいきません。『この番号かも』と不確実な番号を入れるのは3回程度でやめておいたほうがいいでしょう」

 -パスコードが分からなければどうすればいいのでしょう。

 「故人がバックアップを取っていれば活用できますが、そちらにアクセスできなければ使えません。ネット上にバックアップがあっても、そこへ接続するにもIDやパスワードなどが必要となるでしょう」

 「データ復旧業者に依頼する手もありますが、特にスマホについては最新機種では対応が難しいとされていますし、時間も費用も相当かかる恐れがあります。相場は20万~50万円程度、期間も1年以上かかることもあります。成功するとも限りません。パソコンについてはスマホの場合より問題になりにくいようです」

 「つまりパスコードがないと、デジタル遺品の把握が困難となる恐れが高いといえます」

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伊勢田篤史(いせだ・あつし)】慶応大を卒業後、大手監査法人を経て中央大法科大学院に進み、2014年に弁護士登録。「終活弁護士」として相続問題に力を入れる。著書に「デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた」(共著、日本加除出版)など。